レビュー一覧
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山﨑 光さん 「青春18×2 君へと続く道」 5/4(土) ユナイテッド・シネマ豊洲にて鑑賞 |
『好きな映画監督は?』と問われれば、これまで数々の名作を生み出してきた多くの偉大な方々が候補に浮かびますが、私は藤井道人監督であると答えます。そんな藤井監督の初の国際プロジェクトということで、公開前から非常に楽しみにしておりました。 作品の始まりは18年前の台湾、高校生・ジミーのバイト先に現れた日本から来た4つ年上のバックパッカー・アミ。ひと夏を同じ店で働き過ごすことになり、次第に2人の距離は縮まって行くものの、急遽アミが帰国することになります。そして時が経ち現在。あるきっかけで久々に実家を訪れたジミーは、日本に戻ったアミから18年前に届いたハガキを見つけます。初恋の記憶がよみがえり、過去と向き合い今を見つめるため日本で初めてのひとり旅へ。若き日と18年後の今を交互に映し、あの時の何故?を作品の中で紐といて行きます。 本作では全編を通して、意味深い言葉の数々が印象的でした。丁寧で緻密な美しいストーリー展開と名実ともに素晴らしい俳優陣の演技力に、思慮深さを感じるような味のあるフレーズが交わり心に響きます。作品から感じられる儚さ・美しさに心を奪われ、エンドロール後もずっと余韻に浸っていたくなるような作品です。なんだか無性に旅に出たくなりました。 |
高井さやかさん 「ミッシング」 5/18(土) 新宿ピカデリーにて鑑賞 |
意地悪な視点を持てる人の方が優しさの視点も深い、と強く感じる事が大人になって増えた。この「ミッシング」を観た時も、吉田監督はなんて意地悪で優しい人なのだろうと思った。ドキュメンタリー的演出と、幼女の失踪事件という題材故に、鑑賞中は心が痛み何度も涙が出た。しかし本作はただ苦しいだけではなく、とてもシニカルな笑いや、どんな人間の中にも善悪の両方があると思わせる、巧みな人物描写に思わずニヤリとしてしまう。 本作には2つの軸がある。娘の帰りを待つ主人公夫婦と弟、もう一方は彼らを取材する報道陣である。今までのイメージを覆す石原さとみの演技に圧倒させられ、青木崇高の夫・父親としての苦悩に涙し、弟を演じた森優作の絶妙な怪しさや精神の揺らぎのうまさに心を掴まれる。そして、事件の当事者を演じた3人の激しい感情の芝居に対して、彼らを客観的な立場から取材する記者・砂田を演じた中村倫也の静かなる好演は、バランス感覚に優れ、助演力の光る素晴らしいものだった。夫婦の悲しみを側で感じながらも、傍観者である砂田は私たち観客に近い役割でもある。また、そんな彼がメディアの在り方や善悪に苦悩する姿は、本作で描かれている事は私たちが自問自答すべき問題でもあると思わせてくれた。恐らくこの砂田こそもう一人の主人公であり、観客をただの鑑賞者で終わらせない重要なキャラクターであったと感じる。 失踪した娘の帰りを待つという苦しい状況を描きながらも、ラストにかけて不思議と希望や温かさを感じさせる本作は、間違いなく今年観るべき傑作の1つである。 |