レビュー一覧
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玉川上水の亀さん(男性/51歳/会社員) 「大鹿村騒動記」 7月21日(木) 丸の内TOEIにて |
舞台挨拶もイベントも無い、平日夕方の上映回。高齢者が目立つが、劇場は七割以上埋まっている。時々湧き上がる笑いと熱気、エンドロール終了と共に自然発生的に拍手に包まれる館内。このような反応は、何時以来だろうか? 映画ファンの一人として素直に嬉しい! 本作品が、原田芳雄さんの遺作となってしまった。もともとこの映画は、テレビ番組の企画で大鹿村を訪れた原田さんが、村歌舞伎の存在を知り、古くから知己のある阪本監督に映画企画を打診し、実現したオリジナル作品である。 個人的な思い出として、TBSが前の局舎時代に、関係者駐車場へジープで颯爽と乗り入れるところを見掛けた、ワイルドでかっこいい原田さんの姿が、強く印象に残っています。出演した映画作品では、「竜馬暗殺」(74)「祭りの準備」(75)「浪人街」(90)そして阪本監督との「どついたるねん」(89)が印象深い。本作品では、幼馴染に妻を奪われ、駆け落ちされてしまった、鹿肉料理店の主人を飄々と演じている。 この映画は喜劇作品ではあるが、阪本監督は単なるドタバタコメディーにしていない。若い人達が都会に出てしまい高齢者ばかりの過疎村、大鹿。手の付けられないボケ老人として、18年ぶりに帰って来た妻。性同一性障害で悩むアルバイトの若者。恋人が東京に出て行ったままで、遠距離恋愛に焦る村役場の女性職員。これらの社会問題を笑いの中にさり気無く挿入して、作品にスパイスを与えている。そして劇中劇の『大鹿歌舞伎』。人々の抱える悩みもわだかまりも吹き飛ばしてしまう、村歌舞伎のパワーと熱気。芸達者なベテラン俳優達で繰り広げられる村歌舞伎に思わず見入ってしまいます。特に、原田さんが演じる「景清」には、向こう正面から思わず『よっ、大統領!』と声を掛けたくなります。 病身でプレミア試写会の舞台挨拶をし、初日を見届けた原田芳雄さんの映画人としての矜持に胸が熱くなります。エンディングテーマ曲を歌う忌野清志郎さんと共に改めてご冥福をお祈りします。 |
後藤さん(女性/37歳/主婦) 「Cars 2」 7月上旬 USAにて |
息子達のたっての希望でアイマックスシアターにて鑑賞。私に限らず小さな男の子のいる人なら、カーズ、特にライトニングマックイーンは凄く身近な存在のはず。なんで男の子はこんなに無条件に車が大好きなんだろ? 前回の主題歌、シェリルクロウのリアルゴーンを息子達と何百回聴いたことか…… それはともかく、今回の「カーズ2」は、お話自体は至って単純明快。前作同様、友情の大切さを教えてくれます。にしても、この話をよく106分にしたなと変に感心してしまったくらい、あらすじは簡単。そんな訳で、この映画の魅力は話の筋よりも断然映像。可愛い車の数々、舞台となる日本やイタリア、イギリスの街並。子供映画なのに結構凝っている! 日本人としては日本の描写が気になるところだけれど、かなりリアルに表現されていると思います。東京がメインで、銀座や新宿、歌舞伎座等がスピーディーに映し出されて、ちょっとした『はとバス』気分。そして挿入歌として使われているPerfumeの「ポリリズム」が、東京の空気感をとてもいい感じに表していて、アメリカでこの映画を見ていた私は、一瞬東京に舞い戻ったような気分になったわ。なんていうか、矛盾するようだけど、幻想的かつ象徴的なシーンだった。 さて、当の息子達もすっかり映画を楽しんで「カーズ3はいつ?」と言っていました。子どもを映画に連れて行きたいけれど戦闘シーンは苦手、ということなら持って来いの映画です。前作に比べるとちょっとだけ悪役が目立ちますが、それほど気に留める必要はなし。あの絵だと、悪役すら可愛く見えてしまう不思議。大人だけで見るなら? うーん、そこそこ車が好きな人なら! |
川上 望さん(男性/59歳) 「こちら亀有公園前派出所 THE MOVIE ~勝どき橋を封鎖せよ!~」 8月10日ワーナーマイカルシネマズ板橋にて |
「こち亀」は、少年ジャンプで良く読んだ、私の青春のメモリアルです。今、漫画で見ることはありませんが、懐かしさとCMの面白さに引かれ、大学時代に通学した東武練馬のマイカルで、じっくりと観てきました。思いがけない感動作品に仕上がっていて、最後のシーンで泣けました。 始まりはただの日常。香取慎吾扮する両津勘吉と同僚や上司の大原部長(伊武雅刀)とのやり取りが出て来て、誇張し過ぎる香取の演技にも慣れ、彼の大げさな顔が両津そのものに見え始めた辺りに事件の中核となる登場人物との何気ない出会いが織り込まれ、ドラマチックな事件が幕を開け始めます。笑いの盛り込まれた序盤に引き込まれている内に自然な形で怒涛のクライマックスに突入するのです。 両津以外の主要な登場人物は3人。深田恭子扮する、旅芝居劇団の座長で花形役者の桃子とその小学生の娘ユイ。桃子は、偶然にも両津の同級生だった事があり、両津にとっては、心を寄せるマドンナである。行方不明になっていたユイの実の父親の光男(谷原章介)。朝、通学路に立ち、小学生の交通指導員を勤めている、平田満演じる初老の男。そうした人間関係の中で、警察庁長官の孫娘を狙った誘拐事件が起こります。ところが、ちょっとした手違いで、誘拐されたのは桃子の娘のユイでした。愛する桃子のため、両津は犯人に必死の説得をしていきます。まだ観ていない方もいらっしゃるので、細かい経緯は述べませんが、無器用な人間味たっぷりの両津の姿に感動を覚えるのです。 ラストシーンは、両津の命がけの説得と行動。犯罪を犯した者も一人の弱い人間。その哀しみに迫りながら、両津は心の底からの言葉をぶつけます。序盤にその一途な人間性を見せつけられているだけに両津の行動は確かな説得力を持って、観る者の魂を揺さぶります。漫画原作とは言え、最後は涙なしでは見られない感動作品に仕上がっています。夏映画の中の秀作と言っても過言ではありません。劇場の大画面で体感することをぜひお勧めします。 |