レビュー一覧
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杉山さん(女性/専門学校講師) 「ソラニン」 4月20日、 シネ・リーブル |
「ソラニン」を見て、社会人になった頃の様々な気持ちが鮮やかに呼び起こさせられた。理想と現実とのギャップ、会社での人間関係に溜まってゆく疲労感、恋人との将来への夢と不安など。平々凡々な主人公たちが日常に埋没してしまいながらも必死にもがく姿が切なくて、途中から涙が止まらなくなってしまった。 宮崎あおい演じる芽衣子は面白くもない仕事を勢いで辞めてしまい、フリーターでヒモのように同居していて音楽を諦めきれない恋人・種田に夢を託してゆくが、夢が思い描いた形で実現出来なかった時に、種田は交通事故に遭い死亡してしまう。しばらくは立ち直れなかった芽衣子だが、種田のいなくなった隙間を埋める作業をするかの如く彼のバンド仲間に「ヴォーカルであり彼の作詞した歌、ソラニンを歌ってみたい」と申し出る。宮崎あおいはプライベートを含めて人前で全く歌った経験がなく、歌は彼女のコンプレックスだったそうだが、ギターとヴォイスレッスンを猛特訓して撮影に臨んだ姿が芽衣子とオーバーラップして感動的なライブシーンとなった。 バンドメンバーも輝きを放っていた。ビリー役の桐谷健太は、種田を亡くした後の芽衣子を優しく見守り、時には種田の友人として彼を止められなかった不甲斐無さを吐露する。ドラムプレイも素晴らしく、「ROOKIES」でのキレキャラとは全く異なった包容力のある演技だった。加藤役のサンボマスター近藤洋一は原作漫画からそのまま飛び出してきたかのようなふくよかな風体、しかしさすがはバンドマン、ライブの雰囲気が良かったのは彼に因る所が大きかったのではないだろうか。特に学生バンドにありがちな、ギターやベースが客席の方へ身体を向けられず、リズムの要であるドラムを取り囲むようにプレイしてしまう感じ、音を出したらハウリング、スポットライトが眩しくてMCや歌詞が飛んでしまう素人感が良く出ていて、「あるある」と思いながら楽しめた。 物語は小田急線が多摩川を横切る景色を中心に展開し、芽衣子は「平和な景色」と表している。でもその土手は今から三十数年前に堤防が決壊し、その後新しく作られた土手だ。この平和な景色がずっと続いて欲しいと願い、ソラニンの歌詞も重なって…また泣いてしまった。 |