レビュー一覧
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村松さん 「桃さんのしあわせ」 3月23日 第4回沖縄国際映画祭にて |
2011年の第68回ヴェネチア国際映画祭コンペンティション部門に出品され主演女優賞を受賞。第31回香港電影金像奨では作品賞・監督賞・主演男女優賞を、第48回台湾金馬奨でも監督賞・主演男女優賞を独占した静かな感動のドラマ。監督は「女人、40。」(95)のアン・ホイ。 ベテラン女優ディニー・イップ演じる、ある一家に4代に渡って仕えた老家政婦が病に倒れ、介護老人ホームへ入所することになる。現在、一家はアメリカに移住していて、香港で同居しているのはアンディ・ラウ演じる映画プロデューサーのみ。彼もまた、映画の製作中で決して時間に余裕があるわけでないものの、仕事の合間を縫って、実の家族同様に献身的に支えていく。 誰しもが、必ず迎えるであろう“最期の刻”までの、残されたわずかな日々を淡々と描き、大きなドラマが起きることはないものの、飽きさせることなく、2時間じっくりと見せる。ともすれば、感情がこもりすぎて大仰な物語になりがちなテーマを扱いながらも、登場人物への暖かい視線は保ちつつも過剰な演出を避け、そのことが、かえって感情移入しやすい身近な物語として、見終わった後には、切なくも忘れがたい余韻が残った。“血の繋がりを越えた家族愛のあり方”を描き、このような“幸せな死の迎え方”もあるのだということを教えてくれた作品だった。 また、アンディ・ラウが映画プロデューサーという役どころのため、彼の製作した映画のプレミア試写会のシーンではツイ・ハーク・サモ・ハン・キンポー・レイモンド・チョウなどの香港映画界の大物が本人役でカメオ出演しているのも嬉しい演出だ。ノーギャラで主演したアンディ・ラウの心意気に惹かれたのだろう。脇役には「インファナル・アフェア」(02)組のアンソニー・ウォンやチャップマン・トゥも顔を見せている。 最終的に2012年の第4回沖縄国際映画祭では、オスカーも征したあの「アーティスト」を抑え一般審査員と観客の投票による 『 Peace部門 海人賞(うみんちゅしょう)グランプリ』と審査員特別賞として『ゴールデン シーサー賞(金石獅賞)』の二冠を獲得するに至ったが、その結果も納得の力作であった。 |
横沢佑真さん(20代/飲食業) 「悪の教典」 11月12日 TOHOシネマズ日劇にて |
『悪』とは一体、何だろうか? 今までの人生で僕は、おそらく『善』についての教育は、それなりにされてきたと思う。物を大事にしなさいだとか、他人には優しく接しようだとか、もらったお年玉は無駄遣いしないように必ずお母さんに預けるだとか。きっと誰しもが小さな頃に教わることだろう。けれども『悪』については、とてもあいまいな教えしかされていない気がする。物を盗んではいけないとか、他人を傷つけてはいけないとか、お父さんとの約束を破ったから今年はサンタクロースは来ないとか。社会に対して否定的なものをただ『悪』と定義付けられて、もっと本質的な意味を教えてくれる人はいなかった。 じゃあ、人を助けるために物を盗むのは『善』なのか?ゴエモンのTVゲームをしながら、答えの出ない問題にジレンマする日々もあった。自己を守るため罪を犯すのは、本当に『悪』なのだろうか。というわけで、いや、本当にヤバかった「悪の教典」!!こんなに爽快な後味の悪さを覚える映画は初めてだ。何というか、善と悪の間に生じるジレンマみたいに、矛盾した感想を吐き出される。 伊藤英明さん演じる主人公はこれまでの悪役にはないキャラクターで、それは彼の瞳からとても表現されている。これまでの役者イメージを払拭するくらい、素晴らしい目の演技である。それと本作品を観る際は、ひょっとしたら頭痛薬を持参したほうがいいかもしれない。スクリーン上で史上最悪の学園際が始まると、その純粋過ぎる残忍さに、まるで高濃度の酸素を吸い込んだ時のように頭がクラクラするからだ。繰り返される衝撃は、今まで脳に詰め込まれてきたものが揺らいでくる感覚を襲わせる。 タイトル通り、この映画は『悪』とは何かを教授してくれる作品だ。と、僕は思う。内容から言えば不適切な発言かもしれないが、複雑な感情がない分残虐なシーンも楽しんで観れる。 善人の方々は必見。「悪の教典」を観て、どうか己の価値観に悩んで頂きたい。 |
宮本さん(女性/19歳/学生) 「わたしたちの宣戦布告」10月25日 Bunkamuraル•シネマにて |
まずはじめに、この映画は実話を元にしており、またその実話を体験した本人(劇中でのロメオとジュリエット)が監督•脚本•出演を手がけている。 ストーリーはロメオとジュリエットという名前の夫婦が息子•アダムの病魔と戦っていくというありがちなもの。だが、いわゆる『難病モノ』と思って見るとかなり印象が違う。まず予想外なのは、難病モノなのになんかキラキラしまくってる!ということ。この映画においての主役は難病になった息子ではなく、あくまでロメオとジュリエットというカップル。難病の息子を持ったカップルが助け合って、支え合って、時には喧嘩して、本当の目的(アダムの完治)に向かって戦っていく、そのエネルギッシュなカップルの様子をロック、エレクトロ、クラシック……などの多種多様な音楽で表していて、またその音楽がビビッドな映像とあわさって本当にキラキラ!金銭的にも厳しい中、回復の見通しがたたない息子を支える夫婦の、それでも死なない強さがスクリーン全体から伝わってくる。 この映画は従来の『子が難病に犯された親とはこうあるべき』というフィルターをぶちやぶってくれたように感じる。普通の親は看病や心配でいっぱいいっぱいになってしまうのかもしれないが、この映画の夫婦は子のために懸命な努力を続けながらも、病院で冗談だって言うし、たまには歌って踊って遊び尽くす。彼らは子の病気に『宣戦布告』をしたのと同時に『こうあるべき』という概念やレッテルに対しても宣戦布告をしたのではないだろうか。 たとえばロメオとジュリエットのような悲劇やその他どんな運命がおそってきたとしてもそれに懸命に対応しながら、それでも自分の生き方や自分の人生は手放さない。そんな前向きな強さやパワーやエネルギー、全てを感じ新鮮な気持ちにさせてくれる作品だった。 |