レビュー一覧
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村松健太郎さん(33歳) 「11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち」 6月5日 横浜シネマジャック&ベティにて |
鬼才若松孝二監督が「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(08)「キャタピラー」(10)に続いて昭和を描く最新作。特に60年安保闘争からの戦後の激動期を左派右派の視点から描いているというところでは「実録・連合赤軍」と表裏一体の姉妹作品と見るのが正しいのではないかと思われる。 60年安保闘争以降、急激に盛り上がった左翼・共産主義運動に対して、この流れをよしとしない学生たちは右翼・民族主義運動を活発化していく。その中で、自身のナルシシズムの理想系に武士道を重ね合わせた男がいた。流行作家の三島由紀夫である。時代に引き合わせられるように出会った、三島と若者たちは自衛隊への体験入隊などを経て民兵組織“楯の会”を結成に至る。 劇中では実際に起きた社会党委員長襲撃事件、金嬉老事件、よど号事件などが行動した者たちとして行動を起こせないでいる三島と対照的に描かれ、三島の最終行動への遠因として描かれる。これらの事件の実際のニュース映像・報道写真を劇中に盛り込むことで説明的な部分を省いており、物語によりスムーズに入り込むことができた。よくよく見るとロケ地も限られ、キャストも決して多くない低予算体制であることに気がつくが、ここでも実際の映像・写真の挿入が機能していて映画自体にボリュームを持たせ、製作上のハンデを一切感じさせない作りとなっている。 実際の三島とは似ても似つかない主演の井浦新だが 、細かい所作、例えばマッチは必ず一度で火をつける、洋装であっても和装であっても折り目正しく着こなしその着脱に一切よどみがない、家の中での歩く軌道をもが常に同一であるなどの一連の動きで“常に美しくあろうとする男”を徹底して体現。悩み、絶望しつつも自身の美学を貫き通すという我々が抱くパブリックイメージの三島がたしかにそこにいた。クライマックスは、市ヶ谷の防衛庁のバルコニーでの余りにも有名な演説シーン。長回しのこのシーンで井浦新のパワフルな演技を堪能できた。 ここ数年の若松監督の精力的な活動を見ると、また新たな題材を見つけ激動の昭和を描いてくるのではないかと思い楽しみでならない。 |
横沢佑真さん(20代/飲食業) 「ガール」 6月4日 TOHOシネマズ有楽座にて |
思うに「ガール」は、女子の女子による女子のためのガールズムービー、などでは断じてない。もちろん、この映画を観に行く人の大半は女性だろう。事実、僕が足を運んだ映画館も客席の8割は女性で埋めつくされており、圧倒的に周りから浮遊してしまったヒトリボッチの僕は息を殺しながらスクリーンを見つめたものだ。たしかに、そのときの僕は自分がただの場違いな男子だと認識していた。しかし、そんな浮ついた考えもエンドロールが流れる頃にはガラリと一変する。「ガール」は、男子こそが観るべき映画だという感想が浮上してきたのだ(注:男子の中にオネエの存在は考えないものとする)。それには大きく分けて3つの理由がある。 1つは美しすぎるキャスト陣。主演級の女優さんがズラリと並んだ本作は、1秒足りともむさ苦しいシーンが存在せず、僕の心のオトコ臭さがフローラルな香りで消臭されるようだった。中でもメインの香里奈さんにはお手上げで、彼女の、女子として絵になる容姿と華のある演技を女性だけのものにするにはモッタイナイ話だ。男性諸君、君たちは香里奈のトリコになるだろう。 2つめは、作品で描かれているリアルな女性の物語。女子が感じている悩みや喜び、女性にとっては共感を呼ぶストーリーかもしれないが、僕は新鮮な印象を覚えた。おそらく、世の男性にとっても同じことだろう。女性は普段、こんなことを思っているのかと考えさせられる。逆に、男がどう見られているかも描写されているため、今後の立ち振る舞いに多大なる好影響をもたらすことだろう。つまり、この映画を観ることによりモテる男子へと成長できるはずなのだ。ただし、僕がどうだったかはふれないでおくとする。 そして3つめ。これが最も「ガール」を男性にも観てもらいたい驚くべき理由なのだが、それを書くには余白が狭すぎる(字数的に)ため、実際に観て感じてほしい。男として大変喜ばしい感情が起こるはずだ。とだけ、記しておく。 何かと女子の活躍が目立つ現在の日本。肩身の狭い思いをしている狭窄系男子たちは、このガールズムービー「ガール」を観て浮き上がるべし。女性の気持ちも男性の心持ちも、間違いなく持ち上げてくれる映画である。 |
MIKIさん(女性/50歳/会社員) 「この空の花 長岡花火物語」 5月19日 有楽町スバル座 |
この映画の予告で、長岡の花火が映画になると知り見に行ってきました。初めに登場人物が話すテンポが随分と早い映画だなぁと思ったが、これで大林監督の不思議ワールドに入って行った感じだ。時間軸が昭和20年の戦争当時と現代、そして18年前と変わっていくが、どの時代でもふっと入り込んでしまっている自分がいる。映画の中で、新潟に原子爆弾落下の候補地であった話が出てくる。私は父から新潟が原子爆弾落下の候補地だったことは聞いたことがあったが、模擬原子爆弾というのが存在したということをこの映画で初めて知った。そして、この模擬原子爆弾が長岡以外にも全国で49ヶ所も投下されていたなんて、初めて知り驚いた。また、長岡の街は焼夷弾により焼かれたこともこの映画で知った。 長岡に来た主人公・遠藤玲子が訪れる資料館にはそんな焼夷弾の実物模型が展示されている。また、今でも焼夷弾のかけらが市街地から出てくるなんて、戦後随分と経つのにまだ残っているのかと驚いてしまう。戦時中の事を子どもたちに語る語り部の話。そして、戦争の事を劇で表そうとする高校生たち。こうやって戦争の悲惨さを語り継ごうとしている姿が印象的だった。 この映画で高校生元木花役を演じている猪股南さんの1輪車の演技は必見。一輪車による華麗なスピン。一輪車に乗ったまま会話するシーンでも体がぶれない。一輪車でこんなことが出来るのかと驚いてしまった。そして劇では、一輪車の群舞シーンが印象的だった。 映画に山下清さんの言葉「世界中の爆弾が花火に変わったら、きっとこの世から戦争はなくなる。」という言葉が出てくるが、とても印象深い言葉に感じた。花火と爆弾の構造はほぼ同じものなのに、一方は人を楽しませ、もう一方は人を苦しめるものであること。そして、平和の印のピースは指でVの字で表しているが、勝利にしか平和はもたらさないものなのか。主人公遠藤玲子を通して平和活動について、そして平和の大切さについて考えさせられる。 長岡の花火は観光ではないという。ラストの花火の映像がとても美しく、それだけに長岡の人たちの平和への想いを感じた。 新潟県出身の私だが、長岡の花火は見に行ったことが無かった。花火に込められた平和への願いが夜空いっぱいに広がる様を見に行ってみたいと思った。 |