レビュー一覧
|
髙安 杏さん(女性/19歳) 「エブリバディ・ウォンツ・サム」9月29日 試写会にて |
全てが男臭い。生活も考え方も私には新鮮だった。舞台は1980年のアメリカで、大学生活が始まったばかりの数日間の日常を描いている。主人公ジェイクは野球部で部員と生活を共にするのだが、その部員といったら変な人ばかりで驚かされる。ちっちゃなゲームでも負けると怒り出すような負けず嫌いや、自己主張が激しすぎて狂ったように喧嘩を売る人など、とにかく暑苦しい。だから、普段よく観るコメディー映画とは異なり、彼らの普通の生活が面白いのだ。 80年代のファッションや車もかっこ良くて、音楽も明るくなれるものばかりで楽しかった。そして、いつも思うのが日本とアメリカの大学生活とはこんなにも違うのかということ。毎日のように行われるパーティーや自由さには、憧れる反面、日本の大学生活にホッとする。私には117分観ただけで十分だと思えるくらい派手な生活だった。 さて、なぜ私がこんなハチャメチャな作品を選んだのかというと、監督がリチャード・リンクレイターだからだ。「恋人までの距離」(95)をはじめとする「ビフォアシリーズ」3作品は、私が今まで出会ってきた中で一番好きな映画で、数えられないほど繰り返し観てきた。そんな彼の作品はありふれた日常を舞台にしても、心に響くセリフを散りばめることで、ただの現実とは違った特別な世界にしてしまうのだ。驚かされるような展開があるわけでもないのに、印象に残る映画を撮るので流石だなと思うばかり。 そしてこの大学生活も永遠に続くことはないからこそ、瞬間が輝いている青春映画となっている。しんみりするシーンは一切ないし、彼らはバカなことばかりやっているはずなのに、会話に名言のようなセリフが溢れているから聞き逃せない。恋の描き方もとっても好き。ジェイクの前に現れる知的な彼女は、話し方も笑顔も可愛い。パーティーなどで登場する女性とは比べ物にならないくらい魅力的だ。そんな彼女と会話している時のジェイクは男と過ごしている時とは違った表情を見せる。自然に囲まれた湖の上で、会話をするシーンがお気に入りなので是非観て欲しい。 彼らの生活はくだらないようにみえて、後悔しないように過ごすことがいかに難しいかを考えさせられた。もう1度観たらまた新たな発見があるに違いない。だって、会話に登場人物の感情が強く込められているのだから。 |
阪本佳純さん(女性/20歳) 「怒り」 9月29日 新宿ピカデリーにて |
今回「怒り」という作品を選んだのは、ボランティアエキストラに何回か参加し印象深かったということもありますが、映画を観終わった後、絶対にこれをレポートしなければ、という使命感にかられ、即決しました。「怒り」は吉田修一の同名小説が原作です。ある場所で起きた殺人事件から一年、整形しながら逃亡している指名手配犯と自分の大切な人が似ていることから、疑いと信じる気持ちでゆれ動く人々が、東京、千葉、沖縄の三か所を拠点に描かれ、それぞれに犯人と思われるあやしい男が存在していました。ミステリーもありますが、テーマである怒りという人間の心理をついた、ヒューマンドラマに重きがおかれた深い内容でした。 もし自分の愛した人が殺人を犯していたら。しかし単純に犯人との共通点が多かっただけで、本当は無実の人かもしれないとしたら。いったい誰を信じたらいいのかと、探り探り息をつく暇も与えない重苦しい時間でした。 まっさらな状態で観たほうが絶対に心にささるので、あまりここでは内容に触れたくありません。観ている間は登場人物の身代わりになりたいと思うほど胸が張り裂けそうで苦しいです。観終わった後は誰かと楽しく話す気にもなりません。自分の弱い部分を片っ端からつつかれたようでとても怖かったです。 ただとても素晴らしい映画だと思いました。原作力、俳優の方々の演技、映画の伝えたいメッセージがズドン、と真正面からはいってきます。是非おひとりで観に行かれることをおすすめします。ひとり孤独な登場人物と同じ状態で向き合うことで、この映画のオーラや怒りをより感じられると思います。 |
はるかさん(女性/25歳) 「四月は君の嘘」 9月16日 新宿ピカデリーにて |
原作漫画が累計発行部数500万部を超える大人気ベストセラーの映画化ということで、公開前から話題を集めた「四月は君の嘘」。「ちはやふる」(16)の広瀬すずちゃんと「オオカミ少女と黒王子」など数々の人気漫画の実写化映画に出演している山﨑賢人くんがW主演ということで、すずちゃん見たさに公開してすぐに劇場に足を運びました。 大画面で見る広瀬すずちゃんの一つ一つの表情や瞳の輝きが綺麗で、ずっと見ていても飽きないほど夢中になりました。広瀬すずという女優の今の魅力が溢れ出ていました。中でも、ヴァイオリンを弾いている場面の表情はピカイチで、綺麗なヴァイオリンの音、弾むような楽しそうな音、力強くインパクトのある音に合わせてコロコロと変わっていく表情を見る度に心が揺れ動きました。更に、すずちゃん演じる主人公、宮園かをりの心境に合わせて変わるヴァイオリンの音もすばらしく、何度か演奏がある中で一回一回少しずつ変化する音楽も楽しめました。そして、もう一人の主役である山﨑賢人くんの透明感も際立っていて、トラウマを抱えるピアニスト有馬公正の葛藤を感じました。 一見、表情が見えづらく暗い印象を与えるメガネ姿でも、メガネの奥の表情を見てとることができ少しずつ変化していく様子を感じられて面白かったです。もう一人気になった人物が、有馬の友人役の渡亮太を演じた中川大志さん。本当に漫画に出てきそうなキラキラとした笑顔とキャラクターに合っているお調子者の動きは微笑ましく、とても好感がもてました。有馬が悩んでいるときに優しく背中を押してあげる一言がすごく好きでした。安定感のある板谷由夏さんの包み込むような優しさ溢れる演技も心暖まりました。 物語は音楽に主人公二人の各々の心境や二人を囲む友人たちの想いを乗せて進んで行くのですが、ピアノやヴァイオリン以外にも、有馬とかをりが二人で歩きながら口ずさむ歌も心が優しくなれる好きなシーンのひとつです。登場人物一人一人が日常の中に楽しさや苦しみを少しずつ抱えていて、それが人間らしさを表しているなと思いました。海辺を自転車の二人乗りで通るシーンや桜の木の下でかをりが待っているシーンなど映像としても綺麗な場面が多く、「僕の初恋を君に捧ぐ」(09)などでも知られている新城毅彦監督らしい優しく柔らかい映像もたくさんありました。 キャストの魅力や心に響く音楽、美しい映像に切なくも心が暖まるストーリーが重なり合い、ラストシーンでは涙が流れました。原作は未読ですが、生身の人間らしさを音楽ともに感じることができる、漫画やアニメとはまた違う魅力溢れる映画だと思います。 |