レビュー一覧
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高瀬倫子さん(女性/40代) 「ワンダー 君は太陽」6月23日 新宿ピカデリーにて |
この映画を知ったのは、主役のオギー役を演じるジェイコブ・トレンブレイによる映画の宣伝をテレビで見たことがきっかけでした。とってもキュートでやんちゃなジェイコブ。12歳ながら多数の映画に出演している演技派子役が、この映画でどんな表情を魅せてくれるのか、期待に胸を弾ませて映画館へ行きました。 人とは違う特徴を持って生まれ、だけど人一倍好奇心旺盛でスマートで、向上心があり、まっすぐ生きている少年オギーと、彼の周囲の人々の物語。この物語は単に個性的な少年が登場するお涙頂戴的な話では決して無く、オギーを中心に、家族であるプルマン家の心優しい人々や、今まで家族に守られて生きてきたオギーが、はじめて通うことになる学校で知り合う、はじめは決して好意的では無かった仲間たち…そんな登場人物の物語も細かく丁寧に綴られて行きます。 何故あの子はあんなことをしたのか。一見、よくある思春期故の行動と思われるものの裏にはどんな理由があるのか。それが徐々に種明かしされながらストーリーは進みます。主人公目線だけではなく、他の登場人物の目線でも描かれて行く為、観客は自分と同じような経験をしている登場人物達に自然と感情移入ができます。 一番印象に残っているのは、初めてできた親友のジャックとオギーがそれぞれ成長して行く描写です。また、スターウォーズファンなら絶対に「おっ!」となるシーンも盛り込まれています。ネタバレになるので詳しくは映画館でお楽しみください♪どの世代にも楽しめる、ハートウォーミングな良作です。 |
南真紗子さん(女性/40代) 「焼肉ドラゴン」7月3日 TOHOシネマズ川崎にて |
本作は、「愛を乞うひと」(98)で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞している鄭義信が、2008年に日韓合同作品として執筆、共同演出を行い、数々の演劇賞を受賞した同名の舞台作品を、自身の手で映像化した作品です。万博開催前後の高度経済成長期の大阪を舞台に、バラックのような長屋で肩を寄せ合いながら焼肉屋を営む在日一家と彼らを取り巻く人々の、むき出しでぶつかり合うような生き様が描かれています。 一家の住む集落の雰囲気は、『あしたのジョー』や『じゃりん子チエ』などの古い漫画やモノクロ映画でしか見たことのなかった荒廃感で、それをカラー映像で描き出されると、あらためて、このような光景が日本の歴史に実在したのかと、冒頭から少なからず衝撃を覚えました。また、正直なところ、在日の方々の経緯や苦悩、国の政策についての知識がほとんどない中、ハングル語のシーンも多く、付いていけるかと戸惑う瞬間もありました。 日本人として知っていなければならない、との呵責なのかと身構えそうにもなりましたが、人種や移民問題を下敷きにした作品が邦画では珍しいだけで、「ル・アーヴルの靴みがき」(11)や「サーミの血」(17)においても、戦争や政治がもたらす問題や皺寄せを受ける人々の苦悩だけでなく、過酷な環境下でも人生に訪れる喜怒哀楽が描かれていたわけで、先入観にとらわれずに登場人物に心を寄せてドラマを純粋に楽しめばよいのだと思ったら肩の力が抜けました。 運命に翻弄されて異国に暮らすこととなり、家族のために必死で働き、歯を食いしばって荷台を引く父の姿には、『屋根の上のヴァイオリン弾き』のテヴィエが重なりました。本作では、在日というルーツを原因としたいじめに苦しむ中学生の息子、時生が、外の世界に思いを馳せるかのように屋根に上ります。トキオという響き、また、演じる大江晋平の叫び声は、魂から堰を切って暴発するような勢いと苛烈な切迫感や苦悩をにじませていて、言葉にできないはがゆさがこの上なく悲壮に胸に響きました。 朗らかな3人の美人姉妹はそれぞれに幸せをつかみますが、日本、韓国、北朝鮮と皆違う国での新たな生活を決意します。手紙も届かない国――待ち受ける運命を思うと胸が痛みます。一家の旅立ちに、日本を象徴する花、桜の花びらが、浄化するかのように降り注ぐ様は卑怯なほどに美しく印象的でした。時代の空気感や言葉の響きにも、圧倒的な勢いや生命力が脈打ち、不器用ながらも全力で生きる一家の姿には、誰しもが元気づけられると思います。 |