レビュー一覧
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桑原美香さん(女性/40代) 「ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌」11月21日 ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞 |
Netflixオリジナル映画ですが、配信前にスクリーンで鑑賞しました。J・D・ヴァンスが自身の半生を綴った著書を名匠ロン・ハワード監督が映画化しています。 主人公はオハイオ州南部出身の元海兵隊員J・D・ヴァンス。奨学金を受けながらイェール大学ロースクールに通う苦学生です。法律事務所インターンの面接試験を前に、彼は薬物依存症の母親ベヴがヘロインの過剰摂取で入院したことを知らされます。やむにやまれず帰郷した彼は、過去を回顧しつつ、母親を立ち直らせようと心を砕くのです。 115分の上映時間で一つの家族の三世代にわたる物語を丁寧に描写。人生を諦めかけている母親ベヴのあがき、娘の生き方に責任を感じている祖母マモーウの苦悶、母親を立ち直らせようとするJ・Dの苦悩をありのままに映し出した骨太な人間ドラマに心打たれます。 当初はベヴの暴走に振り回される家族に同情を禁じ得なかったのですが…幾多の葛藤から浮かび上がってくるのは、家族の面倒くささと愛おしさです。家族のしがらみに囚われて人生を投げ出すのではなく、家族の歴史そのものを受け入れて前を向こうとするJ・Dの姿に感じ入りました。 エイミー・アダムス、グレン・クローズの味わい深い演技は必見。配信メインの映画ですが、家族の在り方を問う秀作なのでたくさんの人に観てもらいたいものです。 |
宮崎智也さん(男性/20代) 「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」10月30日 TOHOシネマズ渋谷にて鑑賞 |
この作品は、戦争孤児で心を持たなかった少女ヴァイオレットが手紙の代筆業を通じて人と心を通わせていく物語。舞台は20世紀初頭の電話が普及し始める頃のパラレルワールドの世界。文通が主流で文字を書ける人がそう多くない時代に、手紙の代筆を通じて人々の心を知り、通わせ、かつて自身を保護し最後に「愛してる」という言葉をくれた陸軍少佐ギルベルトの思いを知ろうと生きていく。 京都アニメーション制作で、放火事件が起きて以降初めての劇場公開作。亡くなった製作者の強い思いが込められた作品で、映像を通してその思いが伝わってくる。本当にそう強く感じた。 この作品の魅力は映像美やテーマだけでなく、音楽にもある。高い歌唱力で注目されているアニソン歌手のTRUEの『sincerely』『WILL』など美しくかつ強い思いを込めた主題歌は観客の心を強く引き付ける。劇場内では鼻をすする観客も多くエンドロールが終わるまで誰一人席を立とうとしない。作品を観る誰もがこの作品を愛していることが伝わってくるそんな素晴らしい映画である。 手紙はすたれつつあり、電話やネットが普及、言葉が簡単に人を傷つける、時には言葉一つで人を死に追い込んでしまうこんな時代だからこそ、言葉の本当の力、手紙の力をこの作品を通じて感じてほしい。 |