レビュー一覧
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丸山美歌さん 「悪い夏」 4/12(土) 新宿バルト9にて鑑賞 |
私は映画館が好きです。最適な環境で作品と向き合うことで素直に感情移入ができ、ひとつの体験として印象深く残るからです。少しでも多くの方に映画館での映画鑑賞を身近に感じてほしいという思いで、これから1年間映画を紹介できたらと思っています。 1作目として、「悪い夏」を紹介します。うだるような暑い夏、気弱で真面目な公務員が生活保護受給者を訪問するところから物語は始まります。生活保護の不正受給、貧困問題、育児放棄などの社会問題を取り上げ、"クズとワルしか出てこない!"と謳っている本作。もちろん人の弱みに漬け込む利己的な人間が出てきます。 正義って怖い。取り巻く環境や強い信念から生まれる正義感。行動指針であり盾になるものだけど、崩れたときに他責へ転換しうるものだと思いました。また根本はワルではないのに、ひとつの出会いや突発的なきっかけで人間は簡単に変わってしまう、そんな人間の脆さも感じました。そして終盤にかけての展開はまさに実力派キャストの魂のぶつかりあい。リミッターの外れ具合に少し笑ってしまうほど。 生命力を感じる凄まじい日本映画でした。暗く重い内容ではありますがエンタメ性に優れ、爽快感と希望を残すラストに好感が持てました。北村匠海さんの絶望に満ちた闇堕ち具合も見どころです。集中して作品と対峙できる映画館でぜひご鑑賞ください。 |
河村あずささん 「教皇選挙」 |
誰もが1度きりの人生ですが、映画を見れば、時代も性別も人種をも越える経験ができます。映画のこのような擬似体験は、私にとって自分自身を成長させてくれる大切なものです。そんなただ映画好きの私が、今年の『ぴあ特別会員』として務めさせていただけることを光栄に思います。この1年間、皆様が作品に興味を持っていただくきっかけとなれるような映画レポートをお届けできるよう、精一杯務めさせていただきます。 今回ご紹介したい作品は「教皇選挙」です。この作品は正直な話、突然のローマ教皇の死により、次の教皇を決めるために世界中から候補者が集められ、外部と完全に遮断された礼拝堂で教皇選挙が行われるという、文字に起こせばそれだけの話です。しかしその話の中に、保守派とリベラル派の対立、聖職者のスキャンダル、野心、汚職…様々なテーマが次々と何重にも重なってくる展開が、巧みな演者と、緊張感漂う音と、美しい色彩で描かれ、見応えがあります。 神を信じ、神という理想に少しでも近づけるよう生きる彼らが、むしろこれでもかというほど、生々しく人間らしい姿を曝け出すのを見て、人間という生き物の不完全さや未熟さを感じさせられました。まるで自分もあの場で選挙に参加する1人になったかのような気持ちで観られる、スリリングなサスペンスエンターテイメント作品として完成度が素晴らしかったです。特に最後の衝撃は、是非映画館で味わってほしいです。 |
江守太一さん 「片思い世界」 4/5(土) T・ジョイSEIBU大泉にて鑑賞 |
幸運なことに、今年度のぴあ特別会員に選んでいただきました。光栄なことと同時に、その重責を感じながら文章を綴っています。今後のレポートを通じて、映画の魅力を少しでも多くの人に伝えられたらと思います。 今月ご紹介するのは、土井裕泰監督の「片思い世界」です。広瀬すずさん、杉咲花さん、清原果耶さんがトリプル主演を務め、坂元裕二さんの脚本によって、人が人を思うことの美しさが繊細に描かれています。 特に心を打たれたのは、劇中で歌われる『声は風』です。この曲が流れる場面では、主演3人の楽しげな笑顔が印象的で、作品に深い一体感と余韻を与えていました。どんなに困難な状況でも、思うことを大切にしながら成長していく。そんな生きることのよろこびを温かく、そして確かに感じることができる映画でした。また、思い続けていれば、世界を越えて繋がれるかもしれない──そんな希望を抱かせてくれるまさに究極の片思いを体現した作品でもありました。 この映画で出会えた主人公3人に、そしてこの文章を読んでくださった皆さまにも、またどこかで繋がれる日が訪れることを願っています。次回のレポートまで、劇中歌『声は風』の一節をお借りしてこの言葉で締めくくります。じゃあね、またね。 |