レビュー一覧
|
横沢佑真さん(20代/飲食業) 「KOTOKO」 4月11日 テアトル新宿にて |
「KOTOKO」を観終わった後、映画館からのいつもの帰り道で迷子になってしまった。それは2時間弱の急激な道路工事により道が変貌したせいではなく、この作品に描かれた、僕にとって未知な感覚に僕の脳みその根っこあたりが揺さぶられたからだ。今まで見えていた世界が少し変わって見えるほどの衝撃だった。 まず映画冒頭の導入部から頭蓋が揺れた。世界がふたつに見える女、琴子。僕は常々、自分以外の人にこの世界はどう映っているのか、と疑問に思っているのだが、その問いに対してひとつの答えをもらえた気がする。何よりそれを描写する映像が、まるで自分自身が幻覚を見ているような気分になり素晴らしかった。 それに作品のテーマであろう、母子の愛情。繊細に研ぎ澄まされた鋭利な愛は自分も子供も傷つけてしまうのかもしれない。育てる、守る、生きる。母になることはない僕にとっては痛々しすぎて、それでもどこか憧れてしまうような内容だった。 そして僕の脳に一番の激震をもたらしたのは、何といっても主演であるCoccoさんの演技だ。圧倒的な迫力、魂を表現するような熱演でスクリーンからとてつもないエネルギーを感じた。おそらく、Coccoさん本人の意思がこの琴子、物語、作品に反映されているのだと思う。 ともかく、これから劇場に足を運ぶ人には必ず、自宅までの地図を持参するように忠告したい。脳髄まで震えるくらい、心に残るものがある映画だからだ。 |
MIKIさん(女性/50歳/会社員) 「僕達急行A列車で行こう」 3月24日 新宿バルト9にて |
にわか鉄道フアンになってしまいそうな映画。鉄道好きの小町と小玉、一人一人キャラがはっきりした登場人物達に電車が中心のストーリー展開。電車好きという共通項ですぐに仲良くなれるっていいなぁと見ていた。 トンネルから出てくる電車にどこの風景だろう、こんな機関車庫があるんだ、私もこんな場所に行ってみたい、こんな電車に乗って行ってみたいと思った。小町が住まいを探す先で見せてもらうトレインビューのこだわりぬいた部屋は、こんな部屋に住んだら毎日楽しいだろうなと観ていてワクワク。同じ鉄道好きでも、駅弁好き、風景好き等違いがあるんだと感心。仕事や会社の危機も、同じ趣味が縁でうまく解決に向かって動いていく様子はまるで電車のように進んで行く感じ。登場人物名や小物など細部にもこだわりぬいていて、こんなところにも電車が使われていると、様々な場面に登場する電車ものを見つけるのが楽しい。週末は映画館通いの私も、春風に誘われ電車に乗ってちょっと旅してみたくなる。 観終わって、是非シリーズ化して欲しいと思ったのだが…。この作品、森田監督の遺作となってしまったのが残念でならない。もっともっと楽しい映画を私たちに見せていただきたかった。心より監督のご冥福をお祈りいたします。 |
宮本さん(女性/19歳/学生) 「キツツキと雨」 2月25日 角川シネマ新宿1にて |
会員証を頂いて、うれしくてすぐに映画館にいきました。それが「キツツキと雨」です。ほんとうに良い選択でした! 木こりの役所さんと気の弱い新人映画監督の小栗さん。ふたりがそろそろ~っと近づいたり、離れたりする過程がかわいらしく、そしてその背後にある『映画』という存在が、改めてとても素敵なもの、なんです。だって、初めてラッシュを見たときの役者さんのキラキラわくわくした表情!『ほらみろ、やっぱ映画ってすごいんだぞぉー!』と大声で主張したくなりました(笑)映画なんて興味も無かったおじさんを一瞬で夢中にさせてしまう! その後、木こりさんは撮影現場のお手伝いを始めます。木こりさんは、別人のように生き生きとしています。新人監督さんも木こりさんの後押しなどで徐々に自信を得ていく。そして、撮影が終わった後、また元の日常に戻った木こりさんは仕事中にふと、映画撮影中にスタッフから『本番撮ってるから作業中断して』と言われたことを思い出し、一瞬立ち止まります。あぁ、映画って、こういうところがまた素敵なんだなぁ。 映画によって人生180度変わる!!みたいなことはなかなか無くても、少しでも日々が特別に見えるときが増えれば、それだけで尊いことなんだなぁ。と。木こりさんの場合は”映画を観た”記憶では無いですが、わたし自身とある映画を見て、雨がすこし好きになったことを思い出しました。見ると、映画をまたすこし好きになる作品です。 |
丸茂さん(女性/26歳/販売業) 「ドラゴン・タトゥーの女」 3月13日 新宿ピカデリーにて |
私がこの映画を好きになる事は、予告編を観た時からもう決まっていたのだと思います。なぜなら、私の大好きな歌手のカレン・オーがカバーしたレッドツェッペリンの名曲「移民の歌」が、予告編で使われていたからです!こんなにカッコイイ曲を聴かされたら、もう観るしかない!と、まんまと予告編に釣られ劇場へ行くとやはり作品を気に入ってしまいました…。 まず冒頭でいきなり、作品の世界観を表現しているであろう黒くてドロッドロとした映像と共に、この曲が流れるのです!なんという事でしょう!開始早々、曲と映像が見事にマッチしたそのカッコ良すぎる世界観の虜になり、一気に引き込まれました! スウェーデン製作の同名映画のハリウッドリメイク版である本作は、オリジナルよりも更にダークで不穏な空気が増しており、ヒロイン・リスベットが抱える孤独の中に潜む、狂気と人間味という正反対の繊細な部分を掘り下げ、より彼女の人間性に鋭く迫っている様に感じました。そんなパワーアップしたリスベットだけでも見応えがあるのに、失踪&殺人事件の謎解き、陰謀と残虐性に満ちた展開に静寂と寒気を帯びた映像、胸キュン必死なダニエル・クレイグの渋~い魅力、と様々な見所がある中、ラストは予想外の、と~っても切ないシーンで終わります…。 芸術性と娯楽性のバランスが絶妙な世界観にすっかりハートを奪われ、クセになる、かなり中毒性の高い映画でした。早く続きが観たい! |
村松健太郎さん(32歳) 「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」 4月13日 TOHOシネマズ渋谷 |
ウィンストン・チャーチルとならびイギリス現代史において毀誉褒貶にまみれながらも圧倒的な存在感を放つ女性政治家の一代記。映画デビュー後、2年に1回のペースでオスカーに絡み続ける、生ける伝説的な女優メリル・ストリープが、世紀を跨いで3度目のアカデミー賞を受賞したことも話題となった。 “鉄の女”と称されたマーガレット・サッチャーも今は認知症を患う身となり、その曖昧になりつつある記憶の中で、思い出されるのは男社会の象徴とも言うべき、政治の世界に“何かをなすべき”という志を持って挑んできた日々だった。まず、ショッキングなのが冒頭、老女が一人スーパーに牛乳を買いに行き、その値段と売られている新聞にあるテロの記事に驚くシーン。これがメリルだということに驚き、その後に続くサッチャーの現状の描写にさらに驚かされる。実際のニュース映像も盛り込みながら、約80年の彼女の人生を描き出していくのだが、想像以上に政治的な部分は少なく、ひとりの老政治家が今はもう表舞台に自分の居場所がないということ、そしてどんな時も支え続けてくれた愛すべき夫も今はもう居ないことをやっと受け入れていく姿を描くのがメイン。 自分の中でも賛否評価が分かれる人物ではあるが、何かをしたらどうなるかではなく、まず何をするかを考えるべきという彼女の信条は政治家として当たり前ではあるものの、昨今の政治状況を見るとやはり一本筋が通った物言いだと思わざるを得ない。 |