レビュー一覧
|
林 道治さん 「福田村事件」 9月8日(金) テアトル新宿にて鑑賞 |
映画を通じ、知られざる歴史を学ぶ。こうした時間は非常に価値のある一時だと捉えています。そして、この作品もまた多くのことを教えてくれました。時代設定は関東大地震が起きた頃、つまり今から100年前となります。しかし、まるで現代の作品を見ているかのような感覚に包まれ、心がざわめきます。それはなぜか?人の根源的な部分は時代を経ても変わらないからでしょう。 本作は昨今SNS上で巻き起こる『炎上』を予期していたかのように、集団心理が招く悲劇と怖さをまざまざと描いています。加えて、実話をベースにした物語です。一人、二人が思うだけでは絶対に起こり得なかったはずなのに…錯綜する意思が連なることで根拠のない仮想敵を作り出し、目を背けたくなる事象が巻き起こる現実。スクリーン内に映る『喪失の虐殺』に心を深くえぐられました。 リアリティーある描写の連続、ドキュメンタリー作品を多数手掛ける森達也監督の手腕が存分に発揮されています。また、迫力ある演者たちの芝居にグイグイ引き込まれました。『あの場にいたら自分だって同じように行動していたかもしれない』、そんな感情を抱かせるほどに臨場感を有し、力のある一作です。自分の目で見て、耳で聞き、頭で考える。その大切さが身に沁みる劇映画に感じました。 |
村上梨緒さん 「燃え上がる女性記者たち」 9月20日(水) ユーロスペースにて鑑賞 |
昨今、日本でもインド映画が多数公開されている。作品の多くで描かれるのは、煌びやかな衣装を身にまとった俳優たちが歌い踊る眩い世界である。しかし光の対には必ず闇があり、光が眩しければ眩しいほど暗闇は濃くなる。「燃え上がる女性記者たち」は、そんなインドの社会の暗闇に光を当てた作品だ。 本作は、インド社会で長年周縁に置かれてきたダリトの女性達が立ち上げた新聞社、カバル・ラハリヤの活動について取り上げた作品である。レイプやインフラの不整備といった社会問題を報道する彼女たちだが、仕事に対する家族の不理解や結婚の圧力など記者である彼女たち自身も多くの困難と向き合っていた。本作は、彼女たちが様々な圧力と戦いながらも報道という武器で権力に抗い続ける姿を映し出していた。 本作を観て都市部との発展差に衝撃を受けると共に、速すぎる発展の弊害を感じる場面もあった。しかしながら、声を挙げ変革していこうとする彼女たちのような人々は一種の希望だ。そのような活動がやがて大きな渦を巻き起こし社会を変革していくのだろうと、彼女たちの活動に呼応するかのような力強いエンドロールの音楽に耳を傾けながら思った。数々の映画を契機にインド熱が高まっている今だからこそ、多くの人に鑑賞してほしい作品だ。 |