レビュー一覧
|
桑原美香さん(女性/40代) 「カセットテープ・ダイアリーズ」7月5日 TOHOシネマズ新宿にて鑑賞 |
自分が生まれる前に世に出た曲を耳にしてハッと息を飲んだ、そんな経験が私にはあります。本作の主人公ジャベドも父親世代のスーパースター、ブルース・スプリングスティーンの虜になりました。自分の胸中を言い表しているかのような歌詞に深く共鳴、16歳の少年の真っ直ぐな『好き』の気持ちは、やがて彼の生活どころか考え方まで変革していきます。生まれ育った小さな町で閉塞感に苛まれていた彼の心に「夢を実現させたい」という思いが湧き上がるようになるのです。 親からの自立という普遍的なテーマを主軸に、幼馴染との諍い、初めての恋、音楽で繋がった友情etc…をからめて奥行きのあるストーリーが展開。激化するレイシストの差別行動、解雇された労働者の困窮等、80年代イギリスの社会情勢も描写して、先行きが明るいとは言えない環境下で、夢を見出したジャベドが如何に人生と向き合うのかを軽快に映し出しています。 ブルース・スプリングスティーンの歌を巧みに取り入れているところは心憎い限り。ジャベドの気持ちを代弁するかのように、歌詞が視覚化されるユニークな演出が光ります。曲に合わせて恋人、友人らとジャベドが町を駆け抜けるミュージカル調のシーンも躍動感に溢れていて胸が高鳴りました。 歌の歌詞を大事に扱った最高に爽快な音楽映画。音楽の持つ力と家族のありがたさを再確認できる一本。 是非、映画館でお楽しみください。 |
槙マチコさん(女性/50代) 「弥生、三月 君を愛した30年」4月 劇場にて鑑賞 |
令和2年冬。新型コロナウイルスという未知のウイルスにより沢山の方が亡くなっているという暗いニュースを聞いた時、まだ「どこか遠くの外国の一部の話で自分とは関係ない」と思い、今までと同じように映画を観るいわゆる普通の生活を送っていました。 3月に、広瀬すずさん主演の「一度死んでみた」(20)を観た時のこと…朝早いこともあったのかと思いますが、なんと広い映画館に観客は私含めて2人きり。その時、初めて日本にも色々な変化が起きているのだということを強く実感し、こんな日が来たことへの驚きと悲しみが私を襲いました。 そんな中緊急事態宣言が出る前に、映画館に行きました。映画館に着くとロビーを除菌しながら歩くスタッフの方を沢山見かけます。そして、隣の席は指定できなくなっており、いたる所で窓が開いていました。 選んだ作品は、波留さんと成田凌さん出演の「弥生、三月 君を愛した30年」。内容は、学生時代の幼なじみがお互いに惹かれながらも別の道を選び、それぞれ辛い経験を乗り越え、そして時間が経ち大人になった二人が、また新たな関係を築いていく物語です。今は新型コロナウィルスの影響で大変な思いをしている方が多いと思いますが、この作品の弥生の人生のように、冬の苦しい時期を過ぎて春がくることを心待ちにしています。 |