レビュー一覧
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久保さん(男性/52歳/会社役員) 「遺体 明日への十日間」 2月13日 試写会にて |
今月は「遺体 明日への十日間」をレヴューします。主演の西田敏行を始め、緒形直人、佐藤浩市、沢村一樹、筒井道隆、柳葉敏郎など豪華スター競演。見る前は「3.11の映画をこんなオールスターキャストで映画化したら、リアリティーがなくて単なる大作顔見せ映画になってしまうのでは?」などと考えていたのですが・・・。 津波の映像は一切なく、震災の事実は文字によってのみスクリーン上に語られる。そして舞台は山側の被災地へ。停電のため情報が一切入らない中、中学校の体育館に次々と遺体が運び込まれてくる。私たちが東京でテレビが映し出す津波による震災の映像を見ている頃、被災地の方々の方が何が起こっているのか分からなかったという事実すら、この映画を見るまで考えも及ばぬことだった。 舞台は最初から最後までほとんど遺体安置所となった体育館である。毎日「死体」に向き合い、ぎりぎりの精神状態で働く人たち。そんな中、毎日『死体」に声をかけ、「この方々は死体ではありません。ご遺体なんです。」と言う一人の男がいた。この「死体」が「遺体」と認識されて以降、疲れきった人たちがまた前を見て歩き始める。 見る前の懸念は全くの逆だった。「これは有名な俳優さんたちが演じているのだから映画なんだ」と自分に言い聞かせなければ、到底最後まで見ることはできなかった。この映画は日本人なら見るべき映画である。だがもう見たくはない。スクリーンに向かって手を合わせたのはこれが初めてです。 |
石津 修之さん(男性/57歳/会社員) 「横道世之介」 2月12日 試写会にて |
冒頭からややおっとりしたテンポでじっくり青春ものが描かれていく。なにげないエピソード集が続くが、たんたんとしているがつまらない訳でもなく、この作品の文体なんだろうと思いつつ、じっと画面を見つめる。主人公の横道のキャラクターもぼんやりしていて、もっとはっきりしろよとじれったくなるが、待てよ、これが主人公の味なのかと思い、再び画面に引き込まれる。こんな調子で緩やかに物語が進んでいく。 のどかな学園生活、ゆるい日常生活を描いていくが、さすがに単調すぎるという考えか、突然時代をスリップさせて、十数年後に飛ぶ。前触れもなくいきなり時代が飛ぶので少しびっくりする。それでもまたいつの間にか元の時代の青春ストーリーに戻っていく。少し世之介を応援している自分がいる。そうなのだ、映画としての時間が経過すればするほど、世之介のキャラクターに愛着を感じ始めており、またこの青春模様がいとおしくなっている。時代を行ったり来たりしながら、世之介の恋愛物語や成長物語は進んでいく。後半に向かい、この映画のタッチは独特の世界を求めて漂い始める。雪降るラブシーンやカーテンぐるぐるシーンに目を奪われ、いつまでもこの物語に身をゆだねたい気持ちになる。そして世之介のあのことがわかってからは、どうにも切ない。このささやかではあるが等身大の青春映画を見ていて、誰かのことを思い出し、自分の青春時代を思い出した。 |
吉田 創貴さん(男性/24歳/会社員) |
映画を趣味にしてから6年ほどが経ちました。最初は、とにかく観た映画の数を増やそうと頑張っていました。映画の知識もついてきた最近では、次のステップに進んで映画を観て感じたことを言葉にしたいと思うようになりました。そんな時、雑誌ぴあで『日本アカデミー賞ぴあ会員募集』の記事をみつけました。運命を勝手に感じ『応募すれば選ばれるぞ』と根拠の無い自信に満ち溢れ、課題の感想文を書き上げました(お気に入りの「009 RE:CYBORG」を選びました)。自信がよほどあったのでしょう、書類提出後、私は周りの友人に応募したことを言いふらしており、選ばれたらサイト内に自分の文章が掲載されることも喋っていました。当選して、今こうして文章を書けていることにほっとしています。選ばれなかったら、『そのサイトは閉鎖されたよ』と大嘘をつく必要がありましたから。映画レポートは、気張らずに普段友人と話すようなことを書いていくつもりです。「ダークナイト ライジング」(12)のラストをどう思うかとか、「96時間リベンジ」(13)の手榴弾の使い方が斬新だとか、真面目なことからネタ的なことまで。私の文章を読んだ誰かが、その映画が気になって映画館に足を運び、観た感想をまた違う誰かと共有する。そんなつながりを生み出せる1年になれば良いなと思っています。「クラウドアトラス」(13)を観たあとなので『つながり』で話を締めてみました。気になった方は,劇場に足を運んでみてくださいね。
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かつをさん(女性/40代) 「メッセンジャー」 3月17日 新宿シネマカリテにて |
今年は「ハート・ロッカー」(10)「アルマジロ」(13)「ゼロ・ダーク・サーティ」(13)と戦場映画を3本観ましたが、兵士を待つ家族側の映画「メッセンジャー」は、戦死した兵士の遺族に第一報を伝える仕事を取り上げた一本でした。 イラク戦争で負傷し帰国してメッセンジャーになるウィル軍曹にベン・フォスター、上司のトニー大尉にウディ・ハレルソン。ウィルは、帰国後残りの服役期間を『消耗人員告知班』での勤務を命ぜられますが、訃報を受けた家族の悲しみ、痛み、罵声をまともに受ける仕事に心が折れそうになります。実は名誉の負傷とイラクでの活躍を褒め称えられるもウィルには戦友を見殺しにしたのではないかという負い目があり、恋人は不在の間に別の男と婚約していたという私生活での心の痛みが重なります。 そんな中でウィルを指導し、また自身も悩みを抱えたトニー。戦死した遺族とメッセンジャーとして出会い、不思議に惹かれていく未亡人のオリヴィアとの出会いで、『心が解放されていく』ウィルを観ていると、私も一緒に解き放たれていく感覚を覚えました。そして戦死した家族の慟哭、悲哀、そして名誉と尊厳。戦争は決して兵士だけのものではないと思うのでした。兵士の帰りを待つ家族の有様と帰国した『英雄』ウィルの"生きる事"への一歩を描いた作品でした。 さて、今のところの楽しみはホラーの巨匠中田監督の「クロユリ団地」です。1年間よろしくお願いします。 |
村上 真章さん(男性/29歳) 「脳男」 3月7日 TOHOシネマズ スカラ座にて |
ボクだけでしょうか? 「のうおとこ」と初めて聞いたときに、上司の命令ならへそで赤ワインも熟成できるイエスマン、とは逆バージョンの『NO!!男』をイメージしてしまった無能な男は。でも、いいんです。いいんです。だって、あながち間違いでもなかったんで。「脳男」はこの社会の法とか正義とか、罪とか罰とかに『NO!!』をつきつける存在、作品だったんですから。 しかしながら、それが果たして『イエス』なのか。物語のラストには、ワインのように赤か白かとハッキリ答えのでない、何ともロゼ的スパークリングな展開が待ち構えていて、脳みそを口当たり爽やかに発泡させてくれました。でも、いいんです。いいんです。ナニガって、二階堂ふみさんの演技がいいんです。感情を持たない主人公を演じた生田斗真さんの表情もお見事なのです。が、エキセントリックな少女を、もはや憑依させたといっても過言ではない二階堂さんのクレイジーな表現は狂おしいほど心にササりました。惚れ直した、というより惚れ壊した感じです。ふみさん最高っす。 とまあ、本作はボクが日本アカデミー賞ぴあ会員として初めて鑑賞した映画になるのですが、今後とも「脳男」のように『イエス』な作品を見続けたいと思います。とにかく、二階堂ふみさん最高っす。 |