レビュー一覧
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吉田創貴さん(男性/25歳/会社員) 「ザ・コール 緊急通報指令室」 12月14日 ヒューマントラストシネマ渋谷にて |
個人的な話ですが、90分から100分くらいの映画が好きです。『斬新なアイデアだけれどもそこまで長い話にはできない。いや、むしろコンパクトにまとめてアイデアの良さで勝負しよう!』という意気込みが感じられる映画(本当にそう思って作っているかどうかは知りませんが…)が多いように思うからです。また、そこまで上映時間が長くないので、あまり映画を観ない友人にも勧めやすい、という良さもあります。 最後の映画レポートは、上映時間91分の「ゼロ・グラビティ」(13)にしようとも考えたのですが、私がレビューを書かなくてもネット上で『歴史に残る傑作』など良い評判が書かれていますので、多くの人が劇場に足を運んでいるのでは?と思っています。そこで今回は、あまり存在が知られていない(?)作品「ザ・コール 緊急通報指令室」を選びました。ちなみに、映画の宣伝文句は“94分間あなたの潜在能力が試される”で、私はこれを見ただけで公開前からかなり期待していました(笑)。 映画の内容は、自分の判断ミスにより通報してきた少女の命を救えなかった過去を持つ911の女性オペレーターが、誘拐されて車のトランクに閉じ込められた状態で電話してきた少女を電話による指示のみで救出しようとするサスペンスです。リーアム・ニーソン主演の「96時間 リベンジ」(12)では、捕われた主人公が手榴弾の爆音から自分の位置を計算して電話で娘に自分の居場所を伝えるという、かなり無茶な救出劇がありましたが、本作はかなり現実味のある救出方法が描かれており、緊張感がひしひしと伝わってきます。だんだんと犯人の居場所を突き止めていく展開はスピーディーで息つく暇がありません。 映画の後半は、少しテイストが変わって話が進んでいきます。「羊たちの沈黙」(91)を思い出す展開です。やはりヒロインは、映画ラストで猟奇的殺人者にサシで挑まないといけないのですね、かわいそうに…。携帯電話の存在は、映画にかなりの自由度を与えて話を面白くできる一方、肝心な時に使えない理由をうまく脚本に盛り込むのが大変なんだろうなぁと思ってしまいました。 この映画のラストをどう考えるか、映画を観た人と是非話し合ってみたいものです。 |
かつをさん(女性/40代) 「もらとりあむタマ子」 12月8日 新宿武蔵野館にて |
『なんか仕方ないよね』って受け入れちゃうのは『好き』の証拠。「もらとりあむタマ子」の坂井タマ子はそんな憎めない個性を持った、実家に“寄生”中の23歳。「苦役列車」(12)の山下敦弘監督が前田敦子と再び組んだこの作品。不幸なことが全く起きないゆったりとした空気感がとても心地いい。 東京の大学を出たのに甲府にある実家に戻って、寝て食べて漫画を読んでの繰り返しのタマ子と、そんな彼女を苦々しくも憎めずに下着の洗濯までも面倒みている父(康すおん)は二人暮らし。タマ子は中学生の仁(伊藤清矢)をイジって面白がっていた毎日だったけど、ある日父が女性(富田靖子)を紹介されたという話を聞いて…。 映画館で3回観てますが、映画館という箱の力、音響に感嘆。度々の調理場面、ご飯を食べる音、踏切の音、タマ子が仁の秘密を握った時に背景で流れる街の音。全て立体的に聞こえて、食欲が湧いたり、笑いを誘われました。タマ子っていうキャラクターにどうして惹かれるのかわからないから、惹かれ続けてしまう。こんなにぐうたらで、父の期待の重さに怒りながらも、父を憎めず、むしろ父に母以外の女性の影が見えたら急に『あたしはどうなるの?』と落ち着かない可愛さ。『いろいろあるけど二人暮らしだし』っていう変な安心感が崩されそうになり、狭い世界を守ろうと必死になってしまう…こんな姿どっか自分の中にも見いだせるよなって思いました。つまり、タマ子は君であり、僕でもある。自分の中のどこかにタマ子を見出す楽しさが堪らなく嬉しくなって観てしまうのかも。 愛してやまない前田さんは途中から本人自身とすら錯覚してしまうほど芝居にてらいがない。食いっぷりの良さ!台詞が少ないのですが観てて何考えているのか想像できて面白いです。できたら続編として『タマ子18歳』とか大学デビューした頃のタマ子を観てみたい。そして父役のすおんさんの優しい眼差し。素敵なもたれ合いにタマ子がこの環境から抜けるのは勇気要るわって思いました。そして富田靖子さんがタマ子を脅かすのですが、二人の場面が、女性対女性のちょっとした戦いにもなっているのが見所。富田さんとあっちゃんを並んで観る日が来るとは思わなかった!仁役の伊東君の朴訥さがタマ子を助長させる事になるのですが、彼の成長も1年間で描かれています。毎日は緩やかな変化の中にある。お店の特売看板が1年間変わらないのを観て、そう思った素敵な映画でした。 |
村上 真章さん(男性/29歳) 「劇場版SPEC~結~爻ノ篇」 12月7日 新宿ピカデリーにて |
動く画というものにおける最強最高のエンターテイメントは一体どの媒体だと思いますか?ちょっと場違いな発表であると存じますが、ボクは少なくとも十数年前まではテレビっ子でした。今日から数えること干支が一周ちょっと前、当時のボクにはまだ今ドキの誰でも気軽に配信できるWeb動画投稿サイトなる存在を認知することは難しかったため、例えば地方自治体非公認のゆるキャラが繰り広げる面白ムービーを楽しめるわけもなく、もっぱらテレビドラマにハマっていました。その中でもことさらドツボの沼に夢中となっていたのが『ケイゾク』というドラマです。ご存知、今回の『SPEC』の原点といえる作品です。 『SPEC』ドラマシリーズが始まったときは久しぶりにTVにかじりつきました。いやはや、10年前のブラウン管と比べて今の液晶は実に食らいつきやすく、顎にやさしい設計となったものです。そして当然のごとく映画へと続いたストーリーにボクは必然のごとく劇場へと足を運んだ次第であります。TVドラマシリーズが映画化されるパターンについて、歓迎しない批評をよく耳にします。が、しかし『SPEC』は間違いなく劇場化現象バンザイな映画化大成功の作品でした。その要因のひとつは話のどデカさです。本ストーリーは事件を解決するだけの単なる刑事モノでない、なんて説明は不要でしょうが、その上いわゆるガッカリな超能力合戦でもありません。地球という世界のみならず、精神世界や時空を越え、生命の真実とは何かと訴えられるような壮大な展開を魅せてくれます。このスケールを映し出すには映画館のスクリーンでも足りないくらいのため、いくらデジタル放送といえども家庭用の液晶パネルでは役不足でしょう。 また作品内でスペックホルダーと呼ばれる人物たちの能力など、やり過ぎ感マンサイな演出も劇場版でさらにハイグレード化されていて、観ている目から血が、弁慶の泣き所からはスペアリブが飛び出しそうでした。さらに改めて映画とテレビの確固たる違いを思い知らされたのが、臨場感もしくは一体感でしょうか。物語が極めてシリアスな局面にあるときに、堤監督お得意のギャグを主人公の当麻・瀬文がお披露目する。その刹那、劇場から湧いてくる笑いや空気。鳥肌モノです。これがあるから映画はやめられません。『SPEC』は映画というエンターテイメントがもつスペックを再認識させてくれる作品でした。映像化を待っている方がもしいるのであれば、ぜひ劇場へとオススメしたいと思います。あ、でもボクも出たらスグに買いますよ、DVD。 |