レビュー一覧
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南真紗子さん(女性/40代) 「ウインド・リバー」7月31日 角川シネマ有楽町にて |
「なぜ、この土地では少女ばかりが殺されるのかー」。このキャッチコピーとチラシや予告篇の雪が強調された白いヴィジュアルだけでも大いに興味をそそられていましたが、本作は全米でわずか4館の限定公開から4週目には2000館以上での拡大公開を果たし、カンヌ国際映画祭では「ある視点部門」で監督賞を受賞するほどに、人々を魅了したとのことで、期待せずにはいられませんでした。 ウインド・リバーとは、米国ワイオミング州の地名。一見澄み渡った美しい白銀の世界ですが、生活を営むにはあまりに過酷な極寒の山岳地帯。ジェレミー・レナー演じる害獣駆除ハンターのコリーは、依頼によりかつて住んでいたこの地を訪れ、家畜を襲った猛獣を追ううちに少女の遺体を発見します。地元の部族警察長のベン、FBIから派遣された新米の女性捜査官ジェーン、雪山に倒れた少女の死の真相を探る謎解きは、この3人の白人を中心に進んで行きますが、次第にこの凍てつく地に追いやられたネイティブ・アメリカンの厳しい現状が浮き彫りにされていきます。 脚本がすばらしい。ミステリーの扉をくぐらせておいて、背景に横たわる人種差別、失業、暴力、レイプ、ドラッグなどのアメリカが抱える社会問題をあぶり出して行く構成は秀逸で、展開にぐいぐいと引き込まれます。ラスベガスからレンタカーでやってきた新米FBI捜査官は、スクリーンのこちら側のほとんどの観客に最も近く、無知や無意識の素朴な質問には時に棘が潜んでいることを教えられました。 沼のような深さや重さを感じる現実が描かれていますが、スクリーンを通すと荘厳なほどにまぶしい輝きを放つ雪山や、ネイティブ・アメリカンが自然と寄り添いながら耐え忍ぶ姿は純粋に美しく、また、白人でありながらネイティブ・アメリカンに寄り添うことを選んだ主人公が、暗い過去を抱えながらも現実を寡黙に強く生き抜いている姿や、彼が語る真理に迫る言葉は物語に温かな光を射し込みます。Survive or surrender(生き残るか諦めるか)――warrior(戦士)と称えられた諦めなかった少女の勇気や、この映画自体がこの社会問題に対する一筋の光となるであろうことが前を向く力を与えてくれる、多くの観客の支持を得たのも納得の骨太な作品でした。 |
真耶さん 「カメラを止めるな!」7月17日 ユーロスペースにて |
私がこの作品を知ったきっかけは、公開初日から連日満員で記録を更新しているというニュースを見たことでした。ストーリーの流れを説明するとネタバレになってしまう部分が多く、あまり内容は話せませんが、大きく分けると前半、後半に分けることができます。 前半部分は、ゾンビ映画の撮影で、監督は本当の恐怖がでていない!と、こだわるあまり同じシーンをなんと42カットも撮り直します。あまりに撮影が続くので休憩を挟んでいると、本物のゾンビが撮影クルーに襲いかかり、本当の恐怖を感じた俳優たちの表情に監督はこれだ!と大喜びでカメラを回し続けます。 俳優やスタッフのやたらと不自然なやりとり、突然現れては「アクション!」と撮影を開始し、なぜかカメラ目線で話す監督、ゾンビに襲われる可能性が高いのに外に出て行ってしまうスタッフ、妙に棒読みなセリフなど、観ていると多くの違和感を覚えます。そして前半部分を観ていて、失礼ながら、あれ…凄く評判いいのにハズレだったかな?なんて思ったのですが、見事に騙されていました。 映画の後半部分では多くの違和感の答え合わせができます。笑い声が聞こえ始め、徐々に堪えきれなくなった笑い声で溢れ、上映終了後には自然と拍手が起きました。私も映画館でこれほど笑ったのは初めてでした。この映画はホラー/コメディにジャンル分けされていますが、コメディ要素がとても多く、普段知ることのできない制作の裏側、作品を作り上げようとする熱意や人間模様も感動的で、ホラーが苦手な方にも楽しめる作品だと思います。 最初は都内2館だった上映館も今では120館を超え、気軽に観られるようになったのでたくさん笑いたい時に是非見て欲しい一作です。この映画は「生き返り割り」というリピーター割引をしている映画館がいくつかあるのですが、観終えたあとの高揚感や満足感が高く、裏側や結末を知った上でもう一度最初から観たい!と「生き返り割り」したくなると思います。 |