レビュー一覧
|
杉山さん(女性/専門学校講師) 「ちょんまげぷりん」 8月4日(水)シネ・リーブル池袋 |
本作は、ドラマでも活躍する錦戸亮の映画初出演作品。180年前の江戸時代から現代へタイムスリップしてしまった侍・木島安兵衛を演ずる主演の錦戸亮の好演が目を引く。 まず第一に、背筋の伸びた侍としての佇まい。いまどきの日本男子ではなかなかお目にかかれなくなってしまった、無骨ながらも筋の通った武士道を現代でも貫く姿。ハンバーガー店で騒ぐ子供たちに「いいかげんにせい!」と一喝した場面では、映画館なので我慢したが拍手したい気分だった。その一方でシングルマザーの家に居候する代わりに「今後奥向きの用事一切、拙者がお引き受け申す」と申し出て家事に勤しむのだが、スーパーの買い物手順やタイムセールを解説したり、洗濯では洗剤や柔軟剤を使いこなすために研究したりする姿に、笑ったり感心させられたり、家事について改めて考えさせられたりした。掃除のくだりではじゅうたんの下に隠れている畳を見つけて拭き掃除をし、障子を張り替えて畳に正座をする姿から、人は自分の身の回りに当たり前にあるはずのものがあると落ち着んだということが実感でき、ジンときた。 また、発熱した息子・友也のためにプリンを作ったことがきっかけでケーキ作りにはまっていくのだが、メレンゲの立て方、粉合わせ、デコレーション、チョコレートのテンパリングなどの手つきはまさにパティシエだった。クリスマスパーティを催すまでになってしまったケーキの数々…ベイクドチーズケーキ、洋梨のシャルロット、イチゴショート、モンブラン、ガトーショコラ、ミルフィーユ、ブッシュドノエル……どれも美味しそうだった、食べたい! そして一番印象的だったのは、安兵衛と友也の絆だ。メディアに出る度に友也役の鈴木福くんが「錦戸が~」と呼び捨てして笑いを誘っていたが、その二人の関係がスクリーンからも伝わってきた。シングルマザーに育てられている男の子が初めて大人の男性と一緒に暮らして、ちゃんと叱られたり、剣道を教わったり、守られたりすることで、父と子のような関係性が育まれていく様をじっくり描いたことが中村義洋監督の「こんなに腰の据えた人間ドラマになるとは」とのコメントにつながったと思う。心温まる、そして見終わった後に大切な人と美味しいケーキが食べたくなる一本です。 |
藤井さん(女性/建築士) 「ベスト・キッド」 8月16日 TOHOシネマズ川崎 |
なんだか、私、すごく面白かったです。内容としては、お決まりの苛められっこが努力して、力を付けて、みんなに認められるように人間的に成長するという単純なものなんですが、なんかイイんだよなぁ・・・。観ながら、いっしょになってドキドキワクワクしてしまいました。 この作品、私が子供の頃見た同名作品(84年)のリメイクで、ミヤギさんにカラテを教わるダニエルさんっていうのを覚えているんですよね。その時にも、子供心に、汚い事をするヤツって大嫌いっ!やっぱり人間としてのルールは守らなきゃっ!って思ったのを覚えていますが、今回も同じように正義は勝つ!!みたいな感じで、感動してしまいました。やっぱり、人間としての基本は守ろうよ。人への思いやりや弱いものいじめはカッコ悪いって教えてくれる映画です。 ジェイデンくん、頑張っていましたね。生意気そうに見えるけど、とってもシャイなかわいい子でしたよ。「地球が静止する日」(08)のプレミアの時、もっと小さくってすごくかわいかったです。サインを下さいって言ったら、恥ずかしそうにお母さんの顔を見てからサインを一生懸命してくれました。 ジャッキーも、ステキに年を取って良かったですね。今までは最前列で戦う戦士だったけど、これからは、弟子に教えるような役をやって欲しいです。先生になっても、お茶目でかわいいジャッキーでいてくれそうで楽しみです。そうそう、亀仙人は、ジャッキーみたいな人にやって欲しかったなぁ。 この映画、私に息子がいたら、絶対に観せたい映画です。男としてのケジメ、人間としてのほこり、人を敬う心、そして自分に打ち勝つ心をこの映画で少しでも感じて欲しいです。大人が観ても感動するんだから、主人公と同じ年齢の子供達が観たら、もっと感動すると思います。ぜひ、親子で観に行ってください。もちろん大人も楽しめるので、お奨めしたい映画です。楽しんできてくださいね。 |
室岡陽子さん (58歳/アルバイト)「借りぐらしのアリエッティ」 7月12日 試写会にて |
今、私は夏休みで故郷の岩手に帰省中。週末に青森と岩手に小旅行し、その途中、黒石市に立ち寄った。同行した弟が「この近くに面白いところがあるよ」と言うので訪れたのが、黒石市にある「盛美園」である。 広々とした明るい日本庭園を臨んで、一階は純和風、二階は緑の屋根瓦も鮮やかな洋風という風変わりな建物が、そこには建っていた。そして、驚いた事になんとこの庭の一部が「借りぐらしのアリエッティ」の舞台となった古いお屋敷の庭のイメージとして使われたというではないか。確かにそう言われてみると笠をかぶったような石灯籠、アーチを描いた石橋になんとなく見覚えがあるような気もする。見上げれば、大きな青空には白い綿のような雲が浮かび、さやさやと木立を風が渡っていく。とろりとした池には黄金色の鯉が眠そうに泳ぎ、しおからトンボが水面をかすめていく。まるで今にもそのツタの葉陰から赤いワンピースにブーツをはいたアリエッティが姿を現しそうだ。そんな訳で、私はこの不思議な庭がすっかり気に入ってしまったのだった。 ジブリの新作「借りぐらしのアリエッティ」は、猛暑の中そこだけに静かな蔭りを感じさせる映画だ。人間に出会って引っ越しを余儀なくされる小人一家の危うい未来と心臓の手術をしなければ生きられない少年のはかなげな生が重なって、物語の先行きは不透明。決して明るくはない。しかし、小人一家の生活が覗けるのはめちゃくちゃ楽しい。使用済みの切手は額に入れて絵の代わりに、鉛筆キャップは花瓶にと人間の不用品を上手に使ったリサイクル生活のなんと豊かで楽しいこと! この映画の一番いいところは、この細部にまでこだわった手作り生活のきめ細やかなリアルさだと思う。 そして、小人たちの感じる人間の世界の巨大さ。角砂糖はあんなにも大きく、待ち針ですら鋭い剣になる。初めての『借り』に出かける父と娘の夜の大冒険。ここには、人間ではない者たちから見た新しい世界の驚きがある。残念ながら、物語の盛り上がりとユーモアに欠け、重要キャラクターであるはずのハルさんや猫のニーヤなど、今ひとつ生かしきれていないのが惜しい。だが“この世界は人間だけのものではない”というメッセージはしっかりと伝わってきた。古い屋敷の中の小さな世界にも様々な虫や鳥、花、動物たちが生きていて、人間も小人も住んでいる。生命とはこのように共存するもの。ジブリの命題というべきテーマが、強く作品を支えている。 |