レビュー一覧
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後藤早苗さん(女性/30代) 「海よりもまだ深く」5月31日 新宿ピカデリーにて |
映画の感想や捉え方は観た人それぞれだと思いますが、どのようにも学びを得られる、そんな懐の深さを感じた素晴らしい映画でした。 是枝監督の映画をこれまで何作か観ていますが、どこか欠けているけど愛すべき人間味溢れた人たちが描かれているところがとても好きです。今回の主人公もそんな阿部寛さん演じるダメ父を中心にした元家族の物語です。 同監督の映画はのんびりした雰囲気が特徴だと思うのですが、この映画はそれに加えてクスッと笑ってしまうような可笑しいシーンがいくつもありました。特に、阿部寛さんの母親役である、樹木希林さんの自然過ぎる演技で思わず笑ってしまいました。また、名言もどんどん飛び出し、映画館でメモを取ろうかと思ったくらいです。物語は、劇的な展開や予想外の事件が起こるわけではない分、自分が考える家族の幸せな在り方や大切な人への気持ち、自分が思い描いていた「なりたかった大人」等様々な思いを巡らせ、情景に自分を重ねながら映画を観ることが出来ました。 この映画を通して監督が伝えたかったことはたくさんあったと思うのですが、私なりの解釈は、人はみんな不完全さのもとに成り立っていて、幸せになれるかどうかはそれを受け入れることが出来るかどうか、そんな前向きなメッセージだったような気がします。愛する人がいて幸せな人にはもちろん、「気付いたらもうこんな歳で、このままの人生でいいのかなあ」とモヤモヤしている人もきっと何かが見つかる、お勧めの映画です。 |
はるかさん(女性/25歳) 「アイアムアヒーロー」 6月1日 TOHOシネマズ渋谷 にて |
人気コミック実写化が多数上映される中、評判の良い「アイアムアヒーロー」を満員の映画館の中で予備知識もあまり入れずの鑑賞。 ある日新型ウィルスが発生し、ZQN(ゾキュン)と呼ばれる感染者は理性を失い人間を襲うようになってしまう。日本中がZQNだらけで大パニックになる中、35歳漫画家アシスタントの平々凡々な男が生き延びるために戦うパニックホラー映画。 この平々凡々な男、鈴木英雄を演じるのは大泉洋さん。大泉さん独特のコミカルなリアクションに大変なことが起こっているにもかかわらず思わず笑ってしまいました。大パニックが起こる前の平凡な生活も細かく描かれているのですが、それが逆に何かが起こる前触れのような気がしていつの間にか物語に引き込まれていきました。 英雄の彼女を片瀬那奈さんが演じているのですが、私がこの映画の中で一番の名シーンだと思うのが、彼女がZQNになってしまうシーン。片瀬さんの身体をはった演技と五時間以上かけたという全身の特殊メイクのシーンは、怖いのに何故かどんどん面白くなってしまう不思議な感覚。こんな美人がここまで変わるのか!というくらいの名演技です。更に、韓国ロケを行ったというショッピングモールや高速道路のシーン。日本では撮影できなかった本物の銃を使ったリアリティー溢れるシーンや大迫力のカーアクションは臨場感たっぷりです。銃の使い方は大泉さんも何度も練習したということで構えもかっこよく、平凡だった英雄が変わった瞬間に気分が高まりました。原作者の花沢健吾さんも大絶賛したと言う、何度も英雄が繰り返す『あるシーン』には英雄自身の物語が全部つまっている気がしてすごく面白かったのでぜひ見てほしいと思いました。 あまり予備知識をいれずに行ったことで、逆にたくさんの驚きや素直に感じられることもありました。 友達などとアトラクションに遊びに行く感覚で観に行ける作品だと思います。 |
陳 珍九さん(女性/38歳) 「ヒメアノ~ル」6月6日 TOHOシネマズ川崎にて |
昔ドラマで1度だけジャニーズV6・森田剛さんの演技を観た。逃亡犯であり恋人にDVまでする演技がとても素晴らしかった。その後彼をテレビドラマで観る機会はなかったが、有名な演出家の作品で演技を磨いている事は知っていた。だから今回楽しみではあったが、アイドルが主演の映画なのでそのファンに向けて作られた作品に仕上がっているのではないか?と少し不安を持ちながら劇場に向かった。だが鑑賞後、言葉が出なかった。今は多くの方に映画館で鑑賞して欲しいとしか思えない。 やはり森田さんは凄かった!彼が殺人鬼・森田にしか見えない。今回初主演だが、狂気だけではなく森田の真の姿まで伝わってくる演技力の高さだった。ただのサイコホラーで終わらなかったのは彼の力が大きいだろう。新たな骨太銀幕スターの誕生だ!!わきを固める俳優陣の演技も、日常を生きる人々が連続レイプ殺人事件に突如巻き込まれていく様を生々しく魅せてくれる。濱田岳さん・佐津川愛美さん・ムロツヨシさんは勿論、殺害されていく役者たちの演技もリアル!他人事ではなく「自分の身にも起きるかも。いや、もう起きてる?」…と緊張感を与える事に成功していた。 𠮷田恵輔監督は全6巻の漫画を良くまとめたと思う。物語の始まりはよくある恋愛話で「いる!こういう人!」と笑わせてくれる。そこから突如地獄に突き落とす構成が秀逸。原作と異なる結末だが監督が伝えたいメッセージが今の社会に鋭く向けられていて、多くの原作ファンにも受け入れられている様子だ。細部にこだわった新鮮な演出が次々とたたみかけてくる。私の様に一喜一憂しながら作品の世界に巻き込まれて頂きたいので、これ以上の説明は省こう。 いい観客がいい作品を育て、いい作品がいい観客を育てる…と聞いた事がある。是非この映画がラスト私達に与える衝撃を受け止めて欲しい。自分と静かに向き合い「本当に悪いのは誰(何)だったのか?」と考えてみて欲しい。「この映画が高評価になるのは日本が堕落しているから。あえて高評価をつけない。」という様なレビューも目にした。確かに一理ある。だが、だからこそ映画の力が必要で、それが最大限に生かされるなら日本の未来も変わるのでは…?今年度主演男優賞に森田君が輝く姿が目に浮かぶ。勿論作品賞も監督・脚本賞も期待大。上質な邦画がもっと増えて世界で沢山評価されたら、日本の誇りである。 |