レビュー一覧
|
榎本泰之さん (男性・20歳/大学生) 「トイ・ストーリー3」 8月12日 TOHOシネマズ日劇3にて |
前作の最後でウッディは、バズに肩を組みながら言う『“その時”がきても、俺には相棒がいるんだ』。博物館で永遠に飾られる人生よりも、アンディのおもちゃとして大人になるまで遊んでもらう人生を選んだおもちゃの言葉だ。だがそれは、あの「卒業」(1967)のラストのような、すっきりしない終わり方である。ウッディもそれが一時的なハッピーエンドでしかないことをわかっていたはずだ。 本作はまさに“その時”の話だ。大人になったアンディとの別れとその後の行き先。今回は冒頭から暗い。我々に親しみのあるおもちゃがいくつかなくなっているし、おもちゃ達は17歳になったアンディの気を引こうと奮闘する日々。そこにはかつての楽しさも笑いもない。あるのは過去を取り戻すための負け戦のみ。 だが、保育園という道を見つけてからはハラハラドキドキの連続だ。感動のラストまでノンストップで駆け抜ける。 ゴミ処理場で、おもちゃ達は逃げることを諦める。互いに手を取って見つめ合うその目は、すべてを悟った目だ。アンディのおもちゃとしてアンディを楽しませる役目を終えた今、行き場のないおもちゃとして燃やされるのが運命ならば受け入れよう。自分達の存在が“不要”となっても、その現実を受け入れる。残念ながらそれがおもちゃの使命なのだ。覚悟して燃え盛る炎へと向かっていくおもちゃ達の姿に泣ける。 その後助けられるものの、持ち主アンディとの別れという現実は変わらない。おもちゃと持ち主アンディの別れが、アンディとその母との別れとつながる。おもちゃと人間との関係が人間と人間との関係と重なる。この時、あくまでおもちゃ達のファンタジーだった「トイ・ストーリー」シリーズが初めて人間同士の世界において意味を持つのだ。アンディの母が『ずっと一緒にいられたらいいのに…』と言うが、それはアンディにもおもちゃ達の心の中にもある悲痛な思いである。だが、誰もが知る通り、叶わぬ思いだ。人は人生の中で幾度となく別れを経験する。そんな時に必要なのは避けられない現実にただ嘆くだけでなく、悔いのない別れ方をすることだ。アンディとおもちゃ達も永遠の友情を胸にきっぱりと別れる。 いつか必ず訪れる“別れ”。それを先延ばしにして一時的なハッピーエンドに終わらせるよりも、むしろその現実を受け入れることで、トイ・ストーリーシリーズは新たな高みに到達したのだ |
藤井さん(女性/建築士) 「悪人」 9月13日 109シネマズみなとみらい |
「悪人」狂おしいほど愛しくて悲しい人間の性(サガ)を感じる映画。 原作を読んでから観たのですが、感動しました。原作とほとんど同じですが、「告白」と同じように文字だけでなく、映画は表情が見られるのでこちらに訴えかけてくるものがとても深く感じられました。 人間というものは、本当に自分勝手で、寂しがりで、悲しいほど優しくて、残酷な生き物だということがこの映画1本で全て感じられます。 主役の祐一は、あまり幸せとは言えないような境遇なのですが、ふっと振り返ると彼を愛している祖父母や親族も居て、見方を変えれば、ちゃんとそれに気が付いたと思うのに何か事件が起こるまで気が付かない。そういうのって、誰もがあるのではないかと思います。普段、普通に生活しているだけだと感じない事が、本当はたくさん周りにあって自分を愛してくれている人が居るって事、ちゃんと振り返って見ておかないと誤った道を選んでしまうという典型の話だと思いました。 人間って、心底悪人っていう人は居ないと思う。でも、生活していく上でのルールがあって、そのルールが守れない人間は悪人と言われてしまうのでしょう。常識というルールがあるからこそ、人間同士のコミュニケーションも上手く行くし、人と生きて行けるのだと思います。人と生きて行ければ寂しくないし、生きるという力も湧いてくる。それが人間。 だから、悪人というのは、一応、ルールを破ってしまった人間に与えられるレッテルのような物だけで、その人が心底悪人ではないと思います。でも、ルールを破ってしまうということは、人間社会が動いていく中でどうしても異端となってしまう。その異端を野放しには出来ない。そして、その犠牲となった人もいるのだから、必ず、罪を償わなければならないんです。たとえ普段はとても良い人でも、その関係者が無垢で素直で素晴らしい人でも、どうしようもない事……。そんな事をすごく感じられた映画でした。悪人は、本当は居ないんです。 残酷だと感じたのは、マスコミです。苦しんでいる人を追いかけて、針で突き回すというのは、本当に恐ろしいと思いました。あんな時に助けてくれる法律とかは無いのですかね。 妻夫木さん、普段の彼とは全然違い、本当に解体作業員で寂しい人間という感じになっていました。金髪は似合わないだろうと原作を読んだとき思っていましたが、映画を観たら、そこに祐一という寂しい人間が映っていて驚きました。そして、深津さん。賞を貰ったの頷けます。寂しかった人間が触れ合える人を見つけた歓びとそれが長続きしないと知った時の悲しみが、内から溢れていました。すごいです。周りを囲む樹々さんや柄本さん、岡田くんも全てがこの映画の中の世界に納まっていて、2時間20分ほどがまったく苦にならず、すべて見逃したくないと思うような内容でした。 音楽も最高です。ラストで主題歌が流れてきて、涙が出そうになりました。人間って……ってすごく感じる音楽です。 今年は、本当に良い作品が多くて、驚きます。「告白」や「キャタピラー」も素晴らしいと思ったのですが、この「悪人」を観て、またもすごい作品が出てきたと感動しました。 |
男性・29歳/会社員 「ヒックとドラゴン」 8月18日 新宿ピカデリーにて |
どうやらドリームワークスの作品に対して大きな偏見を持っていたようだ。ピクサー作品のようにはデフォルメされていない、ドリームワークスアニメーションの歴代のリアルなキャラクターたちの造詣にいまひとつなじめないでいたが、今回は描かれているのがドラゴンであるため、そのリアルな造詣が、逆にそれぞれのドラゴンの個性にぴったりハマり成功していると感じた。序盤でこそ“害獣”と紹介される彼らだが、終盤ではそれぞれのキャラクターがしっかりと際立ち、なんとも愛おしい! 私にとってこの「ヒックとドラゴン」はまさに、至福の90分間だった。 ジブリ作品に影響を受けたという監督ディーン・デュボアは『画面に引き込まれるような3Dにすることを心がけた』とそのインタビューで語っているが、監督の言葉通り、目の前で繰り広げられるその圧倒的なスケールの映像と壮大な物語に私は瞬く間に引き込まれていた。北米のヒットを受け続編の公開が決定したというニュースもなんとも喜しい。 一方で、物語の持つ重厚なメッセージとその深いテーマにも、私はただただ圧倒された。ヒックは、初めて自分と対峙したトゥースがなぜ自分を殺さなかったのか自問する。人間がドラゴンを退治するその理由が何なのか。そもそも、支配し破壊することに意味があるのか。折しもヒックの父によって語られる『飛べないドラゴンは死んだも同然』というセリフは、辛らつな言葉ながらこの作品のテーマに大きく関わるひと言なのだが、ほとんどの観客はおそらく、物語の終盤、あの重厚なシーンを見たときそれに気づく。 “破滅”か“支配”か、それとも……。ヒックは父からも周りからも変わり者扱いされているが、他のバイキングの誰も持たない、鋭い観察力と洞察力を持ち、仲間に対してそのひとつの答えを示す。そしてラストシーン。 ヒックがはからずも背負うことになる重い重い十字架。その掟破りの結末に私は強い衝撃を覚えた。と同時に製作者がこの作品に対してどれだけの思いを込めたのか、そのシーンからうかがい知ることができ、久々に本当に良い作品に出合えたと感じた。何度観ても、そのスケールの大きさに心を奪われる。「ヒックとドラゴン」次回作ではどんなドラマを見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。 |