川又昻「事件」「鬼畜」
川又昻が一本立の撮影監督になったのは、昭和34年の野村芳太郎監督作品「どんと行こうぜ」によってである。その後、松竹ヌーベルバーグの台頭で「青春残酷物語」など大島渚監督作品でも注目された彼だが、大島去ったあとも彼はずっと大船に留まり、とりわけ野村作品との結びつきは深い。最近でも「砂の器」「八つ墓村」など、ずっと撮影を担当してきたが、今回の「事件」「鬼畜」でリアルな映像感覚を見せ、撮影のドラマに及ぼす力を充分に認識させたのである。(大正15年 茨城県)
井川徳道「柳生一族の陰謀」「日本の首領」「冬の華」
東映京都の美術担当として井川徳道は古いキャリアを持っている。特に昭和30年代には「一心太助」「風と女と旅がらす」「真田風雲録」などの時代劇をもっぱら手掛けていたが、その体験が久しい空白を経ての東映時代劇復興に際して生き返った。「柳生一族の陰謀」のセットその他の美術の見事さは、時代劇に未経験だった深作監督以下のスタッフに、どれだけ大きな支えとなったか計り知れないだろう。その他、やくざ映画「日本の首領」や「冬の華」などで幅広く活躍した。((昭和 4年 京都)
岡本健一(照明) 「愛の亡霊」
照明の岡本健一といえば、人々の記憶に強烈なのが、「羅生門」「雨月物語」「山椒太夫」など、国際的評価を得た一連の溝口健二監督作品における仕事ぶりである。溝口の陰影のある画面が、岡本の照明技術によって大きく支えられていたであろうことは想像に難くない。最近では大島渚監督の「愛のコリーダ」における、ほとんど薄暗い室内シーンにおける微妙なライティングだが、今回の「愛の亡霊」でも、ほとんど暗調の画面になって照明のもつエフェクトを感じさせた。(大正 3年 京都)
木村威夫(美術) 「お吟さま」
文学性の強い、イマジネーション豊かな美術監督として、かつて「関東無宿」「肉体の門」「刺青一代」など鈴木清順監督作品に協力、鮮烈な映像美を結晶させるのに大きく貢献させた。熊井啓とはすでに、「忍ぶ川」「望郷・サンダカン八番娼館」「北の岬」に協力しているが、今回の「お吟さま」は木村威夫にしては珍しく本格的な時代劇作品、戦国時代の権力者たちの生活様式、風俗などをきちんとした時代考察で再現、豪華なセットで作品のムードを盛上げ本領を発揮している。(大正 7年 東京)
宮島義勇(撮影) 「愛の亡霊」「赤穂城断絶」
昭和11年のPCL作品「唄の世の中」で一本立ちになったというベテランの宮島義勇カメラマンは、今回の時代劇「赤穂城断絶」で、いつもカメラをぶんぶんふり回したが、深作演出といい対照で、カメラの位置をしっかりと定めるオーソドックスな撮影技法を原則とし、それが監督の手法にブレーキをかける役割を果たし、相乗作用でいい効果を出した。「愛の亡霊」でも比較的、静的な撮影手法を取り、不倫の愛と亡霊の出現とを、枯れたタッチで表現する作品の意図にマッチした。(明治43年 長野県)
安田哲男(録音) 「愛の亡霊」
安田哲男は岩波映画出身の録音技師であり、予算も時間も余裕のあるめぐまれた条件のなかで自由に音の実験をやってきた人である。昭和36年の羽仁進監督「不良少年」は彼が長編もので、オール・ロケのなかで音の実験を試みた意義深いものであった。その後、岩波をやめ、たとえばATG系の「原子力大戦争」など、きわめて貧しい条件のなかでも彼はいい音を出すことに努力していた。「愛の亡霊」になると条件もよく、作品に合わせた微妙な音の表現に彼の功績は大きい。(昭和 3年 東京)