第2回日本アカデミー賞作品一覧に戻る
日時: 1979(昭和54)年4月7日(土)
場所: 京王プラザホテル
司会: 宝田明/平田昭彦
※第1回〜第3回はノミネート方式で実施

優秀作品賞
最優秀賞/優秀賞
(C)松竹(株)

最優秀作品賞 「事件」


大岡昇平の原作による裁判劇で、佐分利信、芦田伸介、丹波哲郎というベテランの芸達者たちが裁判長、検事、弁護士を演じて凄い迫力だ。空想形式で犯罪の場面が展開するドラマ術も巧い。被告の青年(永島敏行)は、二人の姉妹(松坂慶子、大竹しのぶ)に同時に愛され、姉のほうを殺した容疑で起訴されたのだ、それに姉のほうのヒモだったチンピラ(渡瀬恒彦)がからみ、男女の愛憎の激しい葛藤を盛りあげてゆく野村芳太郎の演出の力量はまさに円熟の極致である。(松竹)

優秀作品賞 「愛の亡霊」


人妻(吉行和子)が若い男(藤竜也)と不倫の関係になり、その夫 (田村高広)を共謀して殺し、井戸に投げ込む。明治時代、東京近郊の小さな村での話である。二人は愛を貫こうとするが、周囲への思惑からそれもできず、やがて死んだ夫が亡霊となって出てくる。この蒼白な顔のお化けが、殺された怨念を晴らすのではなく、妻への愛をずっと抱きつづけているのが異色で、不倫の愛の男女もやがて恐怖と罪の意識で破滅にいたる。カンヌ監督賞の大島渚の枯れた愛の映画。(ルゴス・フィルム=大島渚プロ)

優秀作品賞 「鬼畜」


男女の愛憎からこの世の地獄は出現する。松本清張の小説を野村芳太郎監督が映画化したこの作品は、小さな印刷所を経営する男(緒形拳)が、妻(岩下志麻)にかくれて愛人(小川真由美)をつくり、子供を三人つくったことから生じた悲劇である。女は三人の子供を家に置いたまま去り、妻はその子供たちをいびり、男は耐えかねて子供たちを殺そうとする。生きながらの地獄、しかもこのようなドラマは、日常多くの人々の間に生じているのではないかというナマナマしさが迫力。(松竹)

優秀作品賞 「サード」


もと高校で野球部におりサードを守っていた青年(永島敏行)が、高校生と一緒に女子高校生たち(森下愛子など)の売春をあっせんし、感化院に入れられる。そこでの仲間たちの友情、葛藤などが、彼らの生き生きとした感情を基盤に捉えて描かれる。無理に彼らの犯罪を正当化しようとしたり、社会的矛盾のせいにしたりせず、ただひとつの青春の行為として、ナイーブな眼で見た東陽一監督の筆致は確かであり、永島の好演とともに、ミズミズしい青春映画に仕上っている。(幻燈社)

優秀作品賞 「柳生一族の陰謀」


久しぶりに東映時代劇の復活で、徳川家光(松方弘樹)と駿河大納言忠長(西郷輝彦)という、実の兄弟で血で血を洗う将軍職の継目争いを展開する。柳生但馬守(萬屋錦之介)が家光側につき、大軍師ぶりを発揮、果ては忠長を死に追いやり、家光を将軍の地位につけることに成功する。が、但馬守の息子十兵衛(千葉真一)は、この地獄図を見て家光の首をハネる。その首を手に、但馬が「夢でござる」と狂乱する姿が圧巻で、深作欣二監督は骨太な男のドラマを展開した。(東映)
優秀監督賞
最優秀賞野村芳太郎「事件」「鬼畜」


ずっと松竹にいて娯楽映画づくりに専念。決して観客をあきさせないというエンターテインメントの確かな技術で、サスペンスもの、喜劇、メロドラマ、時代劇など数多い作品を手がけてきた。なかでも松本清張ものに傑作があり、「張込み」「砂の器」、そして今年度の「鬼畜」ほか、多くの映画化作品がある。「事件」のドラマの盛りあげの絶妙さを見ても、この監督の演出力の非凡さがうかがえるが、もう60歳に手が届くのに、少しも衰えぬエネルギーは驚嘆に値する。(大正 8年 京都)
優秀賞大島渚「愛の亡霊」


昭和34年に松竹大船から「愛と希望の街」でデビューした時の大島は、まだ20代の若さであった。ひきつづき「青春残酷物語」など、日本の青春を画面に叩きつける衝撃の作品を連打、しかし「日本の夜と霧」の上映が途中で打切られたことをきっかけに松竹を退社、自ら創造社を設立、「飼育」以下の作品で頑張り抜いた。昭和48年に創造社解散後、昭和52年には日仏合作のハード・ポルノ「愛のコリーダ」がカンヌで大好評、ひきつづき「愛の亡霊」で高揚した作家精神を貫いた。(昭和 7年 京都)
優秀賞田中登「人妻集団暴行致死事件」「好色五人女」


日活ロマン・ポルノ路線から生まれた俊英監督で、「(秘) 女郎屋の地獄」で耽美的なエロチシズムを実現、監督協会の新人賞を得たのち、釜ヶ崎周辺の底辺に生きる娼婦をドキュメンタリー調で描く「(秘) 色情めす市場」、愛する女の哀しさを切々とうたいあげた「実録・阿部定」など、ユニークな作品を相次いで発表してきた。今年度の「人妻集団暴行致死事件」「好色五人女」も、それぞれ現代に生きる男女の心情を木目細かにすくいあげた作品であり、人間味あるタッチは捨て難い。(昭和12年 長野県)
優秀賞藤田敏八「危険な関係」「帰らざる日々」


日活がすでに傾きかけてきた昭和42年に非行少年を描く魅力的若者映画「陽の出の叫び」で監督デビューした藤田敏八は、その後も斜陽の映画界と共にそのキャリアを歩み、一連の作品で若者のシラちゃけた倦怠感を表現、ナウな観客に強烈にアピールしてきた。「赤い鳥逃げた?」など、東宝で映画を撮ったこともあるが、その作品のほとんどはロマン・ポルノを含めて日活作品、しかも「帰らざる日々」「危険な関係」にいたるまで、すべて青春を主題としているのは彼自身の心情の若さだろう。(昭和 7年 平壌)
優秀賞山田洋次「男はつらいよ 寅次郎わが道を行く」「男はつらいよ 噂の寅次郎」


昭和36年に「二階の他人」で監督デビューして以来、ずっと松竹大船の監督として、地味な喜劇、人情劇などを撮りつづけ、むしろゼニにならぬ監督だった。それが昭和44年の「男はつらいよ」の大ヒットから、このシリーズで松竹の屋台骨を支える救世主となり、今年度は「男はつらいよ寅次郎わが道を行く」「男はつらいよ噂の寅次郎」で優秀賞受賞。寅さんがぶらりと旅に出て、また葛飾に戻り、いつも美女に恋し、フラれるというパターンを、飽きさせずに繰返すというのは天才的技術だ。昭和52年の「幸福の黄色いハンカチ」の円熟した演出も目を見張らせた。(昭和 6年 大阪)
優秀脚本賞
最優秀賞新藤兼人「事件」


今や監督として押しも押されもせぬ存在の新藤兼人だが、脚本家としては昭和14年の「南国女性」を第一作として、現在までコンスタントな執筆活動をつづけているのだから、これほど長いキャリアをもつ人も少ないだろう。戦後は先輩の溝口謙二の作品から、吉村公三郎など同世代の監督たちの脚本を受託、松竹大船をやめてからは自らの主宰する近代映画協会で脚本、監督で活躍、その雑草のような作家的エネルギーは、60代後半の現在、「事件」でも全く衰えを見せていない。(明治45年 広島県 )
優秀賞井手雅人「ダイナマイトどんどん」「鬼畜」


やくざが野球で決着をつけようという実話を徹底したドタバタで描いた「ダイナマイトどんどん」、男女の愛憎の地獄を描いた「鬼畜」井手雅人脚本の粘着力あるドラマ的迫力はもの凄い。もう50代後半になるベテラン・ライターで、昭和26年の新東宝作品あたりから長いキャリアがあるが、その筆力は少しも衰えていない。黒澤明監督「赤ひげ」のシナリオに協力、今は「影武者」を書き終えたところだが、堂々たる骨格をもったドラマが書ける井手の存在は貴重である。(大正 9年 佐賀県)
優秀賞寺山修司「サード」


詩人であり、劇団「天井桟敷」の主宰者でもある寺山修司は、20代の頃から劇作をやり映画脚本も書いていた。最初は松竹で篠田正浩監督の「乾いた湖」「涙を、獅子のたて髪に」を書き、また羽仁進監督の「初恋・地獄編」の脚本も担当、詩人らしいイメージを奔放にふりまいたが、やがて自ら脚本を書き監督した「書を捨て町に出よう」「田園に死す」では自伝を基としてそこに空想力を加えた感覚が鮮やかだった。「サード」も彼のナイーブな心が素直に出た佳品シナリオだ。(昭和11年 青森県)
優秀賞野上龍雄/松田寛夫/深作欣二「柳生一族の陰謀」


野上は昭和35年頃から東映の専属ライターとして活躍、近頃は仁義、やくざ路線に自らの心情を託していたが、最初の頃は時代劇のシナリオを多く書いていた。彼より少し下の世代に属する松田寛夫は最初からやくざ路線で育ち、その点は深作欣二監督も同じ、「柳生一族の陰謀」が初の時代劇になるわけだが、彼ら三人ともにやくざ映画の血で血を洗う抗争という男のドラマをそのまま生かしながら、それを野上の経験で巧みに時代劇に移し換え、骨太のドラマを造った。よきコンビである。(昭和3年 東京都)(昭和8年 京都)(昭和5年 茨城県)
優秀賞藤田敏八/中岡京平「帰らざる日々」


このシナリオで城戸賞を受けた中岡京平はまだ20代の若さであり、「帰らざる日々」で扱われた主人公の高校時代の回想は、そのまま彼自身の数年前の回想であった。映画化作品のシナリオにタッチした藤田敏八のほうは、すでに40代半ば、しかしこの二人が協力してつくりあげたこの作品が、非常に感情移入のこもったものになったのは、青春というものが各個人にとってかけがえのない体験でありながら、そこに必ず共通の感傷が存在するからだ。そういう思いのする脚本だった。(昭和7年 平壌)(昭和29年 長野県)
優秀主演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞緒形拳「鬼畜」


新国劇の出身であり、テレビではNHKの大河ドラマ「太閤記」の秀吉、「源義経」の弁慶など、庶民的な持ち味はあっても結局は堂堂たる男っぽさで勝負してきた緒形拳が、ここではなんとも情けない小心の男を演じた。妻と愛人の間に立ってビクつき、置きどころのない三人の子供を抱えてウタウタし、これはウジウジしたダメな男の典型ともいえべきものだった。しかしそういう演技を通して、観客に人間の弱さに対する共感を与えたのは、やはり彼の芸の力量だったという外はない。(東京都出身)
優秀賞渥美清「男はつらいよ 寅次郎わが道を行く」「男はつらいよ 噂の寅次郎」


「男はつらいよ」シリーズの寅さん役で、今や押しも押されもせぬ人気スターでも、上野で生まれ浅草の軽演劇に出ていたという庶民的な感覚が、今もなお渥美を支えている大事な要素であろう。彼の年齢が増すにつれ、寅さんにも人生の年輪が刻みこまれ、最近は若い世代の保護者的な立場になることもあるが、それでもまだ自ら木の実ナナ、大原麗子などに愛を注ぐ気持を失なっていない。常にふられるという宿命を抱えながら、いつもユーモアを忘れない。渥美の絶妙の持ち味である。(東京都出身)
優秀賞永島敏行「事件」「サード」「帰らざる日々」


昭和53年にまさに彗星のように現れた新人である。最近の舞台で、軽っぽくてモダンなカッコ良さをもつ若者たちとは似ず、無言で、無表情で、なにか心の重みに耐えているような風情が、非常に新鮮に見える。「事件」でも、どんな現実にさらされても動揺を見せず、ただ黙って考え行動するという感じが、男っぽい魅力の要素になっていた。「帰らざる日々」「サード」にもそういうところがあったが、永島敏行は使いようによっては、これからも新しい若者像を創りあげるだろう。(千葉県出身)
優秀賞萬屋錦之介「柳生一族の陰謀」


「柳生一族の陰謀」の但馬守、「赤穂城断絶」の大石内蔵助という二本の深作監督作品で、萬屋錦之介は見事に時代劇スターとしてカムバックした。どちらかといえば、カメラをふり回し、バタ臭い演出になりがちな深作と仕事をしながら、錦之介は絶対に伝統的な時代劇の芝居を崩そうとせず、役者としての自己を守り通した。「柳生一族の陰謀」のラストでの“夢でござる”の狂乱の歌舞伎的な大演技、「赤穂城断絶」での切腹前後の演技、それは今の観客に伝統の重みを感じさせるに充分だった。(東京都出身)
優秀賞渡瀬恒彦「皇帝のいない八月」


久しく東映のやくざ映画で主演をやってきながら、今ひとつエース格になれず、また兄の渡哲也にも貫禄負けしている感の拭えなかった渡瀬恒彦が、松竹作品「皇帝のいない八月」で演じた右翼クーデターを指揮する若者役は、ゾッとするような切れ味を見せて、我々を驚かせた。狂信的であること、ひたすらそれに突っ走ることが、どんなに恐怖を与えることか、その凄味のなかに、吉永小百合の妻に対する人間的な愛情をチラリと見せて、それは幅広い役づくりに成功していた。(兵庫県出身)
優秀主演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞大竹しのぶ「事件」


NHK朝のテレビ小説「水色の時」のヒロイン役で女優としてデビューした大竹しのぶは、その素直な愛くるしさで若い娘役を演じ、その後もずっと人気を得てきた。だが映画初出演の東宝作品、浦山桐郎監督の「青春の門」では、炭坑で食いつめ、親に死なれ、キャバレーで働き、身を落としてゆく娘を演じ、汚れても純真さを失わない持ち味が絶妙だった。「事件」では、そのかわいい外見のなかに、愛のためには偽証でもするというしたたかさを見せ、また大きく成長した。(東京都出身)
優秀賞梶芽衣子「曾根崎心中」


日活の青春スターとして出発した梶芽衣子は、その後東映で「女囚さそり」シリーズに主演、裏切られ虐げられた女の、ほとばしるような怨念を演じ、その資質に改めて驚かされたものだ。増村保造監督の「曾根崎心中」では、封建制度下に恋人との愛を妨げられ、虐げられ、それに怨みを抱きながらも、結局は死の道行きによって愛を完遂するという役どころ、演技が巧いとかそういうことではないが、愛の情念を全身から発散させた女の美しさは、やはり女優としての天分によるか。(東京都出身)
優秀賞谷ナオミ「薔薇の肉体」


「黒薔薇夫人」「蟻地獄」「団鬼六・薔薇の肉体」「繩化粧」など、谷ナオミは昭和53年のにっかつロマン・ポルノ路線で、主としてSM的な映画に数多く出演、宮下順子と並んで女体派のエース格だった。日常的なぬるま湯の生活から飛躍して、悦楽の極致にまで達しようというエロチシズムは、彼女の独特の表情と身体の動きで、コクのある美しさとなって表現された。結婚のため昭和54年になって引退したというが、まことに惜しい。これまでの彼女の演技の数々を胸に焼きつけたい。(福岡県出身)
優秀賞松坂慶子「事件」


美しい女優さんである。甘いほんわかしたお色気が男ごころにやさしく誘いかける。その松坂慶子が「事件」では、愛のためにはかなり強引に生きる個性的な女を演じ、観客に忘れ難い印象を残した。自分の恋した青年と実の妹が同棲し、子供まで宿したと知ると、中絶することを二人に迫り、しかも男には自分を愛さなければ何をするか分らないと迫る。しかもその前にはやくざのヒモまでいたのだ。そんな生きざまをして無残にも死んでゆく女の哀しさが見事に演じられていた。(東京都出身)
優秀賞吉行和子「愛の亡霊」


劇団民芸の出身で、昭和33年頃から映画出演。多くの日活映画で活躍してきた。今ではもう40代に達しているのだが、なにか愛らしい色気があり、その年齢を感じさせない。「愛の亡霊」で若い男との不倫のために夫を殺すという、思いきった行動に出る人妻を演じながら、悪女的なものは少しも感じさせなかった。愛にのめりこまなければいられない女というものは、なんといじらしく、可愛らしいものだろう。そんなことを感じさせたのも、彼女の演技と魅力の賜物なのだ。(東京都出身)
優秀助演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞渡瀬恒彦「事件」


「皇帝のいない八月」で剃刀のようなシャープな迫力を出した渡瀬恒彦が、「事件」では女のヒモで生きているチンピラやくざを演じ、これが奇妙に人間的な魅力を発散していたのだ。法廷に証人として喚問されると、ふてくされ、ドスのきいた声で、検事を翻弄するような答弁をする。だが一方、女を次から次と取りかえ、働かせて食う、そんな底辺の生き方に徹しているチンピラを、渡瀬はユーモアをたたえて演じた。彼の芸域も広がったものだと、舌を巻く思いだったのだ。(兵庫県出身)
優秀賞嵐寛寿郎「オレンジロード急行」「ダイナマイトどんどん」


かつて鞍馬天狗などで、時代劇の二枚目ヒーロー役を数多く演じてきた嵐寛寿郎が、すでに70代半ばに達してなおも現役で映画出演をつづけているとは何とうれしいことだろう。「オレンジロード急行」での岡田嘉子との飄々たる道行き、「ダイナマイトどんどん」での失語症のやくざの大親分、いずれもコミカルな要素をもった役どころで、人生の年輪を重ねたアラカンさんの、人間的なふくらみ、味わいを感じさせて楽しい。そしてもちろん、貫禄にも事欠かないのである。(大阪出身)
優秀賞田中邦衛「ダイナマイトどんどん」


かつて「若大将」シリーズで、加山雄三と相対する青大将役を演じ、キザで、ダンディで、どこか憎めないワルという田中邦衛の楽しいキャラクターは確定した。しかし「ダイナマイトどんどん」での彼の役どころは、もと本物の野球選手だったが、酒を飲むとメチャクチャになって身を持ち崩した男。やくざ同士のゲームで投手に起用され、快刀乱麻のピッチングは良かったが、酒を飲まされてぶっつぶれるあたりの思わず噴き出させる滑稽味、この役者の真骨頂である。(岐阜県出身)
優秀賞千葉真一「柳生一族の陰謀」


東映で久しくアクション映画に出演、スポーツで鍛えた肉体をフルに生かし、刑事、ギャング、カラテの達人等々、色々とコワモテの役を演じてきた千葉真一が、時代劇復興第一弾の「柳生一族の陰謀」で柳生十兵衛を演じ、剣の達人ぶりを発揮、凄い男臭さを見せた。特にラストで家光の首をハネて父親の但馬に反逆するあたりの、ふつふつとたぎる怒りの演技は印象に強く、さすがに動きの良さでシャープに見せるチャンバラの呼吸も捨て難いものがあった。(千葉県出身)
優秀賞夏木勲「冬の華」「野性の証明」


昭和53年の途中から夏八木勲改め夏木勲となる。かつては東映時代劇「牙狼之介」などで薄汚れた風体で喧嘩剣法を駆使する浪人者を演じていた彼も、NHK朝のテレビ小説「鳩子の海」では鳩子に慕われる妙に人間的魅力をたたえた男を演じ、ファンに親しみを抱かせた。「冬の華」ではやくざの大親分の弟分、「野性の証明」では主人公の健さんを最初は追及し、ついには人間的共感を抱き合う刑事。いずれも役職を超えた人間らしい気持を感じさせる演技で人柄を反映していた。(東京都出身)
優秀助演女優賞
最優秀賞大竹しのぶ「事件」「聖職の碑」


大正期の信州で、学校の教師と愛し合いながら、身分違いのためにその恋をあきらめなければならない。「聖職の碑」での大竹しのぶはそんな古いタイプの女を演じた。そしてそんな女を演ずると、なんとも可憐でいじらしい。主演女優の項に記した「事件」での彼女の、愛を貫くためのかなりしたたかな強烈さとは異質のようだが、しかし「聖職の碑」での彼女も、男と引き裂かれてもじっと胸の炎を絶やさぬだけの強さを持っているのだ。いよいよ女を多面的に演じられる女優になった。(東京都出身)
優秀賞小川眞由美「鬼畜」「燃える秋」


昭和39年に東映の「悪女」で鮮烈な映画デビュー、“悪女女優”の異名をつけられた小川眞由美。もう40歳に手が届き、いよいよ女のアクの強い体臭というものを演じこなして余すところがない。「鬼畜」で妻ある男の子供を三人もつくり、妻と言い争った末、子供たちを置いて姿を消す女も、そのアクの強さで印象に強く、今度は気のいい女ながら、「燃える秋」でのヒロインの友達役も、なにかしつこくこちらに迫ってくる感じ。要するに女というものをフルに発散させる女優だ。(東京都出身)
優秀賞香川京子「翼は心につけて」


昭和25年に新東宝作品「窓から飛び出せ」でデビューした香川京子のキャリアはもう30年にも及ぶ。その間、溝口、成瀬、内田、黒澤など、日本映画のトップクラスの監督たちの作品に相次いで主演、常に清楚な美しさで通してきた女優さんだ。堀川弘道監督の「翼は心につけて」では、不治の病いにおかされて死にいたろうとする娘の母親役、娘の運命をじっと見つめようとする母親の微妙な気持の動きを、やさしさこめて演じきり、この人らしい女らしさを表現し好演だった。(東京都出身)
優秀賞左幸子「曾根崎心中」


かつて「飢餓海峡」で素朴な暖かい愛を抱く底辺の女を、「にっぽん昆虫記」で昆虫のような生命力をもって生きてゆく女を演じた左幸子は、いつも身いっぱいに緊張感をたぎらし、女のエネルギーを発散させながら精いっぱい生きる女を演じて迫力があった。脇役にまわっても、それは少しも変らない、ということを「曾根崎心中」での娼家の女役が示してくれた。梶芽衣子扮する娼婦をかばい、アコギな男にタンカを切って見せる威勢の良さは左ならではの大熱演であった。(富山県出身)
優秀賞宮下順子「ダイナマイトどんどん」「雲霧仁左衛門」


にっかつロマン・ポルノ諸作品で、いつも女っぽさの極致ともいうべきエロチシズムを生み出してきた宮下順子は、その持ち味が認められて各社の作品に多く出演するようになった。「雲霧仁佐衛門」ではそのヌードの美しさで濡れ場を演じたが、「ダイナマイトどんどん」では菅原文太の主人公の求愛をもふりきって、ひたすら北大路欣也扮する前科者に思いを寄せる女の、ひたむきな純愛の演技が、これまでにない宮下の新境地を開いた。脱がなくても立派に通用する女優なのだ。(東京都出身)
優秀音楽賞
最優秀賞武満徹「燃える秋」「愛の亡霊」


武満徹の映画音楽第一作は昭和31年に故中平康監督が日活で撮った「狂った果実」であり、ハワイアンとジャズの効果が、新鮮な印象を与えた。もともと、純音楽の作曲家である武満は、その後も篠田正浩、市川崑、羽仁進など一流監督の映画音楽を担当しながら、自らの音楽の実験を試みてきた。今回の小林正樹監督「燃える秋」では内容に合わせて珍しいほど甘いムードを出し、大島渚監督「愛の亡霊」ではおどろおどろした人間の業のようなものを音楽で表現しようとしている。(昭和 5年 東京)
優秀賞芥川也寸志「鬼畜」


芥川也寸志の映画音楽歴は古く、東京音楽学校在学中の昭和26年すでに「えり子とともに」の作曲を担当し、現在まで長いキャリアを誇っている。野村芳太郎監督との結びつきも強く、昭和37年の「東京湾」の頃から、最近の「砂の器」「八つ墓村」まで、まるで独立した交響曲ででもあるかのような壮麗かつ重厚な曲で観客を圧倒、ドラマを盛りあげた。「鬼畜」の場合、内容的な辛さもあり、音楽も壮麗な作風とは異なり、リアルなものとなったが、その効果がまた大きく映画に貢献した。(大正14年 東京)
優秀賞伊福部昭「お吟さま」


現代音楽の作曲家であり、昭和11年には弱冠21歳でパリ音楽コンクールに応募、チェレプニン管弦楽賞を獲得、その後国内的にも輝かしいキャリアを誇ってきたエリートである。映画音楽の仕事は昭和22年の東宝映画「銀嶺の果て」の頃から手を染め、多くの名作映画の作曲をして現代に至っているが、常に格調高く主題を盛りあげる音楽は人をひきつける。「お吟さま」もヒロインの悲劇をうたいあげる荘重な音楽で、この映画のドラマの高揚に大きく貢献していた。(大正 3年 北海道 )
優秀賞佐藤勝「皇帝のいない八月」


師匠の早坂文雄の死後、昭和31年の「蜘蛛巣城」からずっと黒澤明監督作品の音楽を担当、打楽器を中心としてブラック・ユーモア的残酷さを出した「用心棒」、ベートーヴェンの第九を思わせる「赤ひげ」などの音楽は忘れ難く、また昭和52年の山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」の音楽なども印象に新しい。いい意味の通俗性が魅力で、「皇帝のいない八月」でも、力強いドラマチックな音楽で映画のドラマをかきたてる大きな効果をもたらしていた。(昭和3年 北海道)
優秀賞林光「聖職の碑」


昭和33年の日活作品「踏みはずした春」から映画音楽の仕事をしており、そのリリカルな作風が注目されてきた。特に新藤兼人監督の「裸の島」は、セリフが一つもない特殊な映画で、貧しい農夫の生活を描いた作品だったが、林光の音楽の効果で映画をすごく魅力的なものにし、モスクワ映画祭で映画音楽賞を取ったことは特筆に値する。今回の「聖職の碑」でも彼の抒情味のある音楽が、内容の悲劇性に浄化作用をあたえ、良く効果を出していた。(昭和 6年 東京)
優秀技術賞
最優秀賞川又昻「事件」「鬼畜」


川又昻が一本立の撮影監督になったのは、昭和34年の野村芳太郎監督作品「どんと行こうぜ」によってである。その後、松竹ヌーベルバーグの台頭で「青春残酷物語」など大島渚監督作品でも注目された彼だが、大島去ったあとも彼はずっと大船に留まり、とりわけ野村作品との結びつきは深い。最近でも「砂の器」「八つ墓村」など、ずっと撮影を担当してきたが、今回の「事件」「鬼畜」でリアルな映像感覚を見せ、撮影のドラマに及ぼす力を充分に認識させたのである。(大正15年 茨城県)
優秀賞井川徳道「柳生一族の陰謀」「日本の首領」「冬の華」


東映京都の美術担当として井川徳道は古いキャリアを持っている。特に昭和30年代には「一心太助」「風と女と旅がらす」「真田風雲録」などの時代劇をもっぱら手掛けていたが、その体験が久しい空白を経ての東映時代劇復興に際して生き返った。「柳生一族の陰謀」のセットその他の美術の見事さは、時代劇に未経験だった深作監督以下のスタッフに、どれだけ大きな支えとなったか計り知れないだろう。その他、やくざ映画「日本の首領」や「冬の華」などで幅広く活躍した。((昭和 4年 京都)
優秀賞岡本健一(照明) 「愛の亡霊」


照明の岡本健一といえば、人々の記憶に強烈なのが、「羅生門」「雨月物語」「山椒太夫」など、国際的評価を得た一連の溝口健二監督作品における仕事ぶりである。溝口の陰影のある画面が、岡本の照明技術によって大きく支えられていたであろうことは想像に難くない。最近では大島渚監督の「愛のコリーダ」における、ほとんど薄暗い室内シーンにおける微妙なライティングだが、今回の「愛の亡霊」でも、ほとんど暗調の画面になって照明のもつエフェクトを感じさせた。(大正 3年 京都)
優秀賞木村威夫(美術) 「お吟さま」


文学性の強い、イマジネーション豊かな美術監督として、かつて「関東無宿」「肉体の門」「刺青一代」など鈴木清順監督作品に協力、鮮烈な映像美を結晶させるのに大きく貢献させた。熊井啓とはすでに、「忍ぶ川」「望郷・サンダカン八番娼館」「北の岬」に協力しているが、今回の「お吟さま」は木村威夫にしては珍しく本格的な時代劇作品、戦国時代の権力者たちの生活様式、風俗などをきちんとした時代考察で再現、豪華なセットで作品のムードを盛上げ本領を発揮している。(大正 7年 東京)
優秀賞宮島義勇(撮影) 「愛の亡霊」「赤穂城断絶」


昭和11年のPCL作品「唄の世の中」で一本立ちになったというベテランの宮島義勇カメラマンは、今回の時代劇「赤穂城断絶」で、いつもカメラをぶんぶんふり回したが、深作演出といい対照で、カメラの位置をしっかりと定めるオーソドックスな撮影技法を原則とし、それが監督の手法にブレーキをかける役割を果たし、相乗作用でいい効果を出した。「愛の亡霊」でも比較的、静的な撮影手法を取り、不倫の愛と亡霊の出現とを、枯れたタッチで表現する作品の意図にマッチした。(明治43年 長野県)
優秀賞安田哲男(録音) 「愛の亡霊」


安田哲男は岩波映画出身の録音技師であり、予算も時間も余裕のあるめぐまれた条件のなかで自由に音の実験をやってきた人である。昭和36年の羽仁進監督「不良少年」は彼が長編もので、オール・ロケのなかで音の実験を試みた意義深いものであった。その後、岩波をやめ、たとえばATG系の「原子力大戦争」など、きわめて貧しい条件のなかでも彼はいい音を出すことに努力していた。「愛の亡霊」になると条件もよく、作品に合わせた微妙な音の表現に彼の功績は大きい。(昭和 3年 東京)
優秀外国作品賞
最優秀賞家族の肖像


ローマの豪邸で静穏な余生を送る老教授(バート・ランカスター)の所へ、ビアンカという女(シルヴァーナ・マンガーノ)とその娘、そして美青年コンラッド(ヘルムート・バーガー)などが突如として住みつき、教授の生活がかき乱される。が、もう枯れきったようだった老齢の教授が、コンラッドとの間に不思議な共感をおぼえ、生きる情念が燃え立つのを覚える。故ルキノ・ヴィスコンティ監督が、自らの晩年の心情を教授に託して、堂々たる筆致で描き抜いた傑作である。(東宝東和=フランス映画社)
優秀賞愛と喝采の日々


プリマ・バレリーナとして成功した女性エマ(アン・バンクロフト)と、結婚してバレエ界を引退した女性ディーディー(シャーリー・マクレーン)しいう、二人の対照的な人生を描きながら、女の幸せは結婚か、舞台で脚光を浴びることかと問いかける。ディーディーの娘エミリア(レスリー・ブラウン)のバレエ初舞台の夜に、この二人の中年女性が20年前の確執からなぐり合いまでやる葛藤は凄まじいが、ハーバート・ロス監督は結局、ラストで暖かい救いを与えることで終えた。(FOX)
優秀賞グッバイガール


昭和53年に数多く公開されたアメリカの女性映画の一つであり、かなりヤンキー的な楽天に支えられた作品である。ヒロインのポーラ(マーシャ・メイスン)は、男に逃げられてばかり、今はニューヨークのアパートで娘と二人暮し、そこにふとしたことからエリオット(リチャード・ドレイファス)という俳優が強引に同居してくる。この中年男女は反発し合いながら、いつか愛し合い、結ばれてゆくという、「愛と喝采の日々」に次ぐハーバート・ロス監督のハッピー・エンディング。(WB)
優秀賞スター・ウォーズ


「この映画は私が12歳の頃に読んだり見たりした本、マンガ、映画の思い出集だ。これは私の記憶の中にある面白い話やファンタジーに充ちている」と、ジョージ・ルーカス監督は言っている。独裁体制をしき武力によって銀河系全宇宙を制圧しようとする銀河帝国に対し、この独裁に抵抗する少数の人々が戦いを挑むという、いわば古くからある善玉と悪玉の葛藤が、宇宙を舞台にスケール大きく展開する。これはほんとうに童心に訴えかける夢とファンタジーの映画なのである。(FOX)
優秀賞未知との遭遇


UFOらしき光が空を横切り、電気技師ロイ(リチャード・ドレイファス)はこの怪光に夢中になる。一方、フランス人科学者のラコーム(フランソワ・トリュフォー)は、UFOとのコミュニケーションの可能性を見出す。彼らの努力により山中の基地にUFO母船を着陸させ、人類初めての異星生命体との接触が行なわれる。まるでクニャクニャしたタコのような異星人との遭遇を、スティーブン・スピルバーグ監督は一種厳粛なムードで撮りあげた。その人類の初体験の素晴らしさを。(COL)